IoT活用でスポーツ選手の怪我を予測、テネシー・チャタヌーガ大学の研究

スポーツ選手にとって最も避けなければならないのが、競技中や練習中の思いがけない怪我である。もし怪我をして回復したとしても、しばらく違和感は残るためいつも通りのプレイをすることは難しいだろう。

最悪の場合、怪我の後遺症がずっと続くことで選手生命の危機を迎えることである。怪我は有望な運動選手に肉体的・精神的・経済的に永続的な影響を及ぼす可能性がある。

アメリカ・テネシー州にあるテネシー・チャタヌーガ大学の研究者は、IoTを活用した運動選手の怪我を未然に防ぐフレームワークを開発した。今回は同大学が開発したフレームワークについて解説する。

テネシー・チャタヌーガ大学の研究者が開発した、運動選手の怪我を防ぐフレームワーク

テネシー・チャタヌーガ大学が開発した運動選手の怪我を防ぐフレームワークは、既存の怪我リスク評価方法とスマートフォンから収集したデータを組み合わせることで運動選手の怪我リスクを予測し、怪我を未然に防ぐことを助けるものである。

もう少し詳しく説明すると、個々の運動選手が過去に負った怪我の種類と、標準化されたスクリーニング検査結果を掛け合わせることによって生成されたそれぞれの選手に状況に合わせたリアルタイムダッシュボードを開発した。

この研究タイトル"Mitigating sports injury risks using Internet of Things and analytic approaches(IoTと分析アプローチを用いたスポーツにおける怪我リスクの緩和)"と呼ばれるもので、Risk Analysisという雑誌に掲載されたものである。

研究の測定方法

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画像出典:Pixabay

この研究は45人のNCAA Division I-FCSのフットボール選手たちを対象にして行われた。選手たちがプレシーズントレーニングのために集まった際に、スポーツフィットネス指標(SFI)調査を使用して以前の怪我に関する情報が収集された。各プレイヤーは直立姿勢を保ちながら脚の筋肉反応を同期させる能力を評価するUnilateral Forefoot Squat(UFS)と呼ばれるテストを受けた。Unilateral Forefoot Squatは片足のみで行うスクワットのことで、直立姿勢、膝の角度135度、踵の仰角を10秒間維持しながら、脚の筋肉反応を同期させる能力を評価した。

研究者はスマートフォンに組み込まれている加速度計を利用して結果を測定。試験中の体重の加速度(ジャーク)の瞬間的な変化はスマートフォンの加速度計によって定量化され、データはクラウドサーバに送信・保管された。以前の負傷に関するアスリートの自己申告のデータと、ゲームの条件に付随する縦方向の動きの度合いをトラッキングしたデータが統合され個々の運動選手に関するダッシュボードを作成した。

この研究で得られたデータ分析によると、少なくとも8試合に出場した選手は8試合未満の試合に出場した選手よりも3倍以上の負傷を負っていることが明らかになった。少なくとも1つの危険因子を呈した選手のうち、42%が負傷を負った。

この研究に当たった大学院運動選手トレーニングプログラムのウィルカーソン教授は、「個々のリスクプロファイルを考慮せずにすべてのアスリートに1種類のトレーニングプログラムを割り当てると、怪我の可能性が大幅に低下する可能性があります。(プレシーズン中に得た)結果は次のシーズン中に各アスリートの怪我発生確率の有用な推定値を提供することができます。」と語った。

また「この研究では物理的能力を評価するためのテストは1つだけでしたが、アスリートのパフォーマンス能力のさまざまな側面を評価して個々の怪我リスクの詳細な図を作成するために使用できる多くのスクリーニングテストがあります。」とも述べている。

怪我リスクを分析するMicrosoftのSports Performance Platform

スポーツにIoTを活用することはもはや珍しいことではなくなってきている。
チャタヌーガ大学の研究とは別の例として、Microsoftが2017年に発表した「Sports Performance Platform」というツールがある。

Sports Performance Platformは、クラウドコンピューティング、データ集約、機械学習、予測分析を使用してPower BI、Microsoft Azure、Surfaceデバイス上に構築されている。機械学習機能と人工知能機能を利用して結果を予測し、その洞察をもとにコーチングの決定を改善することができる画期的なツールだ。予測結果モデリングと分析機能によって、プレーヤーのパフォーマンスを追跡し改善することができる。Microsoftはこれをプロフェッショナル、アカデミー、高等学校、個人アスリート、コーチといったあらゆる面に適用することを目標のひとつとしている。

Sports Performance Platformの特徴は、同社のPower BIというツールを活用してプレーヤーの準備状況、トレーニング、痛みなどを表示するライブダッシュボードを提供する。このダッシュボードは各プレイヤーのスピードと距離を表示する。このデータを使用して、すべてのアスリートに対して毎日のトレーニング計画の設計と有効性を検証することができる。

このツールを活用しているスポーツクラブの例としては、全米女子サッカーリーグのシアトルFCやスペインのレアル・ソシエダというサッカーチームなどが挙げられる。

MicrosoftブランドスタジオのJeff Hansen氏は「勝利と敗北の違いは、残り時間5分の風向きの違いや選手の脱水レベル、または試合前夜に30分早く眠りにつくことによって決めることができます」と述べている。

スポーツにおける勝敗を分けるのは選手のコンディション次第であり、選手の肉体的・精神的コンディションを左右するのは日常の些細な要因によって引き起こされるため、要因を分析することは非常に重要である。

まとめ

スポーツにIoTを用いることによって、アスリートの一番の懸念事項である怪我を未然に防ぐ効果を高めることができる。現時点では怪我をする確率を完全にゼロにすることは難しいが、怪我のリスクが高まりやすいタイミングを取得したデータをもとにして分析することは可能である。

スポーツにおける勝敗を決めるのは数々の要因が複合的に絡み合った結果であるため、要因のデータを収集して分析することで様々な角度でスポーツの分析を行うことができる。人間の勘に頼らないデータに基づいた分析をすることができるため、過去のデータとその結果からも深い洞察を得ることができる。IoTを活用したツールを利用することでパフォーマンスの高い運動選手を怪我で失うことを減らし、最高の結果を導くことができる。