シンガポールが進めるスマートシティ「Smart Nation」とは?
スマートシティの建設で毎年上位に入っているのがロンドンやコペンハーゲンといったヨーロッパの都市だが、アジアではシンガポールが上位にランクインしている。インテルがスポンサーシップを結んでいるJuniper Researchという研究では、2017年におけるスマートシティランキングにおいてシンガポールが他の都市を抑えて第1位という結果となった。
シンガポールでは政府が進めている「Smart Nation(スマートネーション)」という国家戦略がある。以下では、このSmart Nationについて解説していく。
シンガポール政府が進める国家戦略『Smart Nation』
スマートネーションは、シンガポールが経済的に競争力のある国際都市になるためのデジタル国家戦略である。2014年の建国記念日に合わせシンガポールのリー・シェンロン首相が提唱したことでスタートした。シンガポールは1981年から始まった国家コンピュータ化計画により、世界でいち早くテクノロジーに精通した国家づくりを目指してきた。高速ブロードバンド網の敷設やブロードバンドに接続している世帯数の多さ、また高いスマートフォン普及率といったように、シンガポールのデジタル化は早いピッチで進んでいる。
Smart Nationの5つの計画
Smart Nationは生活環境をデジタル技術によって改善することにより、国民が良い仕事や機会を得ることやビジネスの成長を通して希望を与えることを目的としている。シンガポールのスマートネーション構想は、次の5つの計画から成り立っている。
National Digital Identity...国民とビジネスのため便利で安全な環境でデジタルによる取引をおこなう
e-Payments...シンプルで迅速、シームレス、安全な支払いの機会を国民全員に与える
Smart Nation Sensor Platform...センサーと他のIoTデバイスの配備によって生活しやすく安全な都市形成に寄与する
Smart Urban Mobility...公共交通機関を強化するために、人工知能および自律車両を含むデータとデジタル技術を活用する
Moments of Life...政府のサービスを結束し、さまざまな機関を横断して市民に政府サービスを提供する
https://www.smartnation.sg/about/Smart-Nation
計画を実行するためにシンガポール政府が進めている取り組み
シンガポール政府は上に挙げた5つの計画を実行するため、新しいアイデアを採用するために適切な政策や法律を整備し、公共および民間によるイノベーションを促進しようとしている。
・オープンデータ
公的機関によって収集されたデータセットは、オンラインポータルを通じ誰でもアクセスすることが可能になる。これによって市民が中心となったイノベーションに参加することができる。
・リビングラボ
シンガポールは新たな経済成長を推進するため研究とイノベーションに投資することにコミットしており、これらの取り組みにはInnovation and Enterprise 2020とAI Singaporeが含まれる。企業や研究者が技術的ソリューションを開発・試作・実行するのに理想的な場所である。
・産業とスタートアップエコシステム
ベンチャーキャピタリストと多国籍企業であるJTC LaunchpadとBASHのようなスタートアップアクセラレータとSGInnovateの形成によって、テクノプレナーと産業メンターを結びつけ、イノベーションとエンタープライズの架け橋となるシンガポールのスタートアップエコシステムをサポートする。
・サイバーセキュリティとデータプライバシー
サイバーセキュリティはスマートネーションの鍵となるため、可能性のあるリスクを認識し、データのプライバシーの優先順位を決め、クリティカルなシステムやネットワークを賢明に保ちながら保護する。
・計算能力とデジタルインクルージョン
スマートネーションの取り組みは、年齢やデジタルリテラシーに関係なく人口のすべてのセグメントが利益を得ることを確実にするために、コーディングと計算思考スキルの学習を再スキルアップし、促進することで強調されている。また、企業や中小企業がデジタル経済の機会を探す際に役立つリソースも用意されている。
このようにシンガポール政府は公共・民間企業、スタートアップ企業、研究機関と協力しながら、スマートネーション構想を確実に実行するために多方面からのアプローチを行なっている。
スマホ保有率が高いシンガポール、Smart Nationを促進する便利なアプリ
スマートネーションを実現するためには、ネットワークに接続されたデバイスでの操作が必要だ。Cloudrockの記事によると、シンガポールの2017年1月におけるスマートフォンのユニークユーザは総人口の85%という結果となった。そのため、スマホアプリを活用することでスマートネーションを推進することができると言っても過言ではない。
以下では、シンガポールのSmart Nationページに掲載されているアプリの一部とその機能について簡単に説明する。
●交通系アプリ:Beeline
Beeline(ビーライン)は目的地までのルートの提案と目的地まで直接行ける手段を提案・予約できるサービス。ルートを検索後電車やバスなどの予約がそのままできる。
●税金に関するアプリ:Customs@SG
海外で購入した課税対象の物品を入力することで税金を計算するための便利なアプリ。入国前に課税対象の物品を申告して税金を支払うことができる。アプリを介して通関犯罪に関する通知やフィードバック、税金に関する質問を送ることができる。
●健康管理:HealthHub
健康に関する記録をパーソナライズできるアプリ。
病院の予約や診断結果、退院サマリー、心拍数の記録を見ることができる。ユーザの家族に関する健康記録も管理することが可能。健康管理に関するコンテンツや健康に関する商品・サービスの割引、またeサービスも提供している。
●本の貸出管理:NLB Mobile
NLB Mobileは本を簡単に借りることができるアプリ。
図書館で貸し出しされている本をブックマークで管理したり、バーコードをアプリでスキャンすることで貸し出しの手続きを完了させることができる。他にも図書館に新しく入荷した本を確認する機能や本の予約、本のレコメンド機能や近くの図書館の検索など様々な機能を利用することができる。
●車の駐車スポット検索:Parking.SG
Parking.SGは駐車スポット検索と料金計算を自動的に行うアプリ。
駐車時間のセッションが近づくと通知がスマホに表示され、時間を延長する場合もスマホで操作することで実行することができる。さらに、時間より早くなった場合はその分の駐車料金が払い戻しされる。
シンガポールのSmart Nationはまさに国全体で行われている実験だ。便利なスマホアプリを活用することで、市民の生活を格段に便利にするため日々研究や新しい技術の開発が進んでいる。スマートネーション構想が着実に実行されるにつれ、シンガポールは今まで以上に便利で快適な街に変貌して行くことだろう。