石油産業で活用されるAR: スマートヘルメットが現場作業を楽にする

AR(Augmented Reality:拡張現実)はデバイスを通して現実世界とバーチャル世界をクロスさせるものである。ARのわかりやすい例はPokemon Go(ポケモン・ゴー)が挙げられる。ポケモン・ゴーはスマホ用のゲームアプリで、実際にユーザーが移動することで操作することができる。

バーチャル上に存在するポケモンを探し求めてユーザーがスマホ片手に各地を歩き回るという一大ブームを巻き起こし、「ゲームは室内でやるもの」という従来の常識を覆した。


ARの活用はゲームだけに限らず他の業界でも活用が進められている。医療業界や建築業界など失敗が許されない高度な技術力が必要な分野において「実際に見ながら学習をする」「遠隔地から現場作業の指揮やアドバイスをする」という目的でも用いられている。

AR技術は石油産業での働き方を変えると期待されている。

以下では、石油産業において活用されているARを活用したスマートヘルメットについてどのような使い方がされているのか例を挙げて見ていきたい。

Daqriの産業用スマートヘルメット

石油産業で活用されるAR: スマートヘルメットが現場作業を楽にする

画像出典:Daqri

アメリカ・ロサンゼルスを拠点にするDaqri(ダクリ)は産業用のスマートヘルメットを販売している。

スマートヘルメットとは様々な業種の現場作業に用いることができるヘルメットのことを指し、カメラとバイザーが取り付けられているものでバイザー部には資料などを表示させることが可能である。このため両手が文書や図面で塞がることなく、バイザーに表示される画面を見ながら作業を進めることができるという画期的なデバイスである。

ネットワークに繋げることで遠隔地であっても現場の作業者がおこなっている業務の様子をカメラを通して観察することができるため的確なアドバイスをすることも可能で、学習のためにも用いることもできる。作業者はバイザーに表示される資料を確認しながら安全かつ効率的に仕事を進めることが可能だ。

DaqriのDAQRI Smart Helmetは他のスマートヘルメットと同じくカメラとARバイザーを搭載しているが、長時間の作業にも耐えるよう長持ちするバッテリーを用いている。また、作業者が用途に応じてオプションを選択できるように、ヘルメットにはUSBポートが2つ付いている。USB接続できる懐中電灯や扇風機を自由にカスタムすることでさらに快適な作業を可能にする。

スマートヘルメットの種類はいくつかあるが、以下では実際に石油産業スマートヘルメットを活用した事例について2つ紹介したい。

石油化学プラントではARゴーグルを使って作業員の移動にかかる経費を削減

Bloombergの記事によると、マレーシアのジョホールバルにある石油化学プラントでは古いタービンの取り替えのために少なくとも10日間の稼動停止と、アメリカにいる専門スタッフの移動費用で5万ドルはかかると見られていた。メンテナンスのためとはいえ最低でもプラントを10日間停止することで稼働率が下がることや、これにかかる前述の費用を考えると頭の痛い話である。

しかし、この石油化学プランとではスマートヘルメットを使うことで稼動停止を5日間に抑え、専門家の移動にかかる費用をゼロにした。

冒頭で紹介した石油化学プラントはこのスマートヘルメットとFaceTime (PCやスマホでビデオ通話や音声通話ができるサービス)を用いることで、アメリカにいる専門スタッフがマレーシアに行くことなしに現場にいる作業員に対して指示をし部品を交換することに成功した。

スマートヘルメットで遠隔地でもコミュニケーションを取りやすくする

石油に関連する会社が資源国にあ施設と別の国にある場合、会社所在地と現場を往復するのは非常に大きな手間とコストがかかってしまう。

また現地で作業する際に書類や図面が必要になった場合、紙に印刷する必要があるのは非常に面倒である。近くに印刷機がない場合、必要なデータを出力すらできない。このためにモバイルプリンターを持ち歩くのも荷物が増えて大変である。

しかし、スマートヘルメットがあれば必要な情報をレンズ上に表示しながら作業を続けることができる。

アメリカに本社があるGE Oil & Gasでは、業務の際にイタリアの会社VR Mediaによって開発されたスマートヘルメットを使用している。VR Mediaはピサ大学の研究からスピンオフした設立間もない会社である。

参考:VR Media
http://www.vrmedia.it/

石油産業で活用されるAR: スマートヘルメットが現場作業を楽にする

画像出典:Vimeo

このスマートヘルメットでは、簡単な音声コマンドによって文書や図面、ビデオの呼び出しをヘルメットのバイザーに表示することができる。音声通話も可能なため、離れたオフィスにいる同僚と現場にいる作業員とで見るものを共有しながら仕事を進めることも可能だ。トラブルが起こった際も現地スタッフと問題箇所を見ながら様々な方法を試していくことで問題解決につなげていくこともできる。

以下の動画は実際にスマートヘルメットをGE Oil & Gasが活用している様子をまとめたものである(スマートヘルメットの説明は1分38秒頃から始まる)。

https://vimeo.com/205083950

参考:Vimeo

スマートヘルメットは前面にバイザー部分とカメラが取り付けられており、ヘッドフォンは外部からのノイズが入りにくいようになっている。カメラはフォローアップのためにビデオ録画することも可能。側面には電話するためのマイクも取り付けられている。スマートヘルメットのカメラのみで作業者が見ているものを撮影するのが難しい場合、ハンドカメラによって見ているものを写すことも可能だ。ヘルメットにはWi-Fi接続のための部品が取り付けられており、Wi-FiアクセスポイントとGSMアンテナ付きのLTEルーターによってワイヤレスで操作することができる。コードが必要ないため危険な場所での作業も安全だ。

ARヘルメットを活用することで専門家が現場へ何度も往復する必要が少なくなるため、従業員の負担を減らすことや効率的な業務を進めることを可能にする。企業にとっても従業員が現場に移動するのにかかる多額のコストを抑えることができる。ARヘルメットはまさにこのような仕事において活用することで大幅な業務効率改善を期待することができるだろう。

以上、ARデバイスが石油産業において活用されている事例を2つ紹介した。

石油業界では豊富な石油資源を持つ国に施設は多くあるが、オペレーションは資源国以外で管理している場合もある。そのため、資源国にある施設と会社所在地を頻繁に行き来することは働く人にとって大きな負担となってしまう。

スマートヘルメットは現場にいる作業者の業務効率改善につなげることができ、離れた場所で働く人とのコミュニケーションを楽にする未来のスマートデバイスだ。