ポルシェがXAINと共同開発を進めるブロックチェーン技術を活用した車とは?
ブロックチェーンが様々な分野で活用が期待されている理由として、次のようなメリットがあるからである。
・全ての取引がブロックに記録される
・分散型ネットワークにより改ざんを防止、高いセキュリティを保つ
・365日、時間や休日に関わらない取引
・非中央集権型のシステムのため利用者同士で即時取引が可能
・仮想通貨による取引には手数料がほとんどかからない
・スマートコントラクトによる確実な契約の履行
ブロックチェーン技術の活用はこれまで様々な業界において不便とされてきた業務を改善することにつながったり、今まで以上に高いセキュリティが期待できることから、革命的な技術として注目を浴びている。
そしてブロックチェーン技術は今後車業界にも適用されていくことになる。
今回は2017年にポルシェが開催したイノベーションコンテストで優勝した、ベルリンにあるスタートアップ企業のXAIN(ゼイン)や、ポルシェとXAINがおこなっているブロックチェーン技術を活用した開発について取り上げたい。
ドイツ・ベルリンを拠点とする「XAIN」とは?
XAIN(ゼイン)はイギリス・オックスフォード大学・インペリアルカレッジ・ロンドンで強化学習を通してブロックチェーンを強化するための研究プロジェクトとして始まった。
XAINのCEO兼共同設立者であるLeif-Nissen Lundbæk氏はメルセデス・ベンツでアナリティクスエンジニアとして、またIBMでソフトウェアエンジニアとして勤務した経験があり、XAINのプロジェクトはLundbæk氏の博士課程におけるテーマである。
強化学習(Reinforcement Learning)について簡単に説明すると、ある環境下において学習主体が利得の最大化のために状況に応じて行動を試行錯誤することで規則を学習することである。学習主体はある環境における知識について何も持っていない状態で、様々な行動を繰り返して学習をおこなうことで規則の知識を身につけていくというものだ。
XAINのコンセプトは、インダストリー4.0の実現を目指す企業に向けたダイナミックかつ低いエネルギー活用をおこなうブロックチェーンインフラストラクチャーの構築である。
現代の機械学習アルゴリズムを利用することにより、独自のイーサリアムベースの低エネルギー利用ブロックチェーン技術をインフラとして安定化させることが狙いである。この技術を確立させることによって、企業向けに自動化されたビジネスプロセスのための堅牢かつ適応性のあるインフラ構築を可能にする。
https://www.xain.io/
XAINの成り立ち
XAINは2017年にドイツ・ベルリンの航空宇宙技術センターでAktiengesellschaft(ドイツにおける株式会社, AG)として商業化され、ベルリンで活発なブロックチェーンシーンに参加するため、またXAINのクライアントのためにベルリンにオフィスを構えた。同年6月にポルシェが開催したイノベーションコンテストにおいて120ものスタートアップの中からXAINが選ばれ優勝した。
10月には配送貨物にスマートセンサーを取り付け、自動的にトリガリングとプロセシングをおこなうためのフォワーディングと配送を含むエンドツーエンドのサプライチェーンネットワークをローンチした。
設立して間もない企業だが、すでにDHLやダイムラー、フォルクスワーゲンなどの大口顧客を持つ話題に事欠かない注目の企業である。
ポルシェが取り組んでいるブロックチェーンを活用した車の開発
ブロックチェーン技術を車に適用すると一体どのようなことが可能になるのだろうか。
一番わかりやすいのは、車のロック/ロック解除である。
例えば、車のロック情報は複数のコンピュータにトランザクションデータが保存され、全てのデータの整合性が取れないとロックが解除されない。ハッカーがデータを改ざんしようとしても書き換えることは非常に困難な作業となる。
Evening Expressの記事によると、ブロックチェーン技術を活用することによってスマートフォンアプリを通して車のロックを安全に解除することができるようになると述べられている。これはヨーロッパで徐々に普及し始めているカーシェアリンングにおいても活用ができる。
https://www.eveningexpress.co.uk/lifestyle/motoring/porsche-to-introduce-extra-tough-technology-to-improve-vehicle-security/
ポルシェがXAINと取り組んでいるのは車のロックに関する技術で、アプリ経由での車輌のロック・またロック解除、一時的なアクセス権限、暗号化されたデータロギングに基づいたものである。これが実現すると1.6秒でロック解除をおこなうことができる。
このサービスが実現されれば、迅速かつ高セキュリティな環境下で車輌自体がブロックチェーンの一部となり、サーバー接続なしにオフラインでも作動することができるようになる。
また監査可能なデータログインを通して、処理されるデータは分散ブロックチェーンでローカル環境に暗号化され、ブロックチェーンには全てのアクティビティが文書で保存される。将来自動運転が可能になった際には全てのアクティビティ記録をユーザがコントロールすることにより、さらなるデータ活用もおこなうことができる。
ポルシェがXAINと共同で行ったアプリケーション開発とテストでは、XAINのエネルギー効率の高いマイニングプロセスを使用することでポルシェのPanameraという車種に導入を試みた。
ポルシェはこのほかにも車の充電や駐車を含む分野においてもブロックチェーン技術を活用した応用開発を進めている。
まとめ
ポルシェのブロックチェーン技術を活用する取り組みは未来を見据えた技術開発である。自動運転技術が実用化されたときに親和性が高いのがこうした高セキュリティかつ迅速な処理をおこなうことができるブロックチェーン技術だ。
全ての取引やログイン情報がブロック上に記録されるため、データの追跡も可能な上にデータを活用して分析をおこなうことでさらに自動運転技術の改善・改良をおこなうこともできる。
ブロックチェーンに関わらず、最先端の技術を取り入れた車の開発は世界中でおこなわれている。海外ではブロックチェーン技術を活用した車の開発に関するニュースが続々と出てきているが、こうした動きが活発になるにつれて日本の自動車業界もブロックチェーン技術を活用した車の開発について意識しなければいけないときに来ているだろう。
今後もブロックチェーン技術を活用した最先端車の開発から目が離せない。