一人でも多くの人にSTEAM教育を届けるために。「Mazey」
これらの教育基準を満たすためにはカリキュラムの見直しを図るだけでなく、実際に新たな教育に活用できる電子工作キットなどの需要が生まれて来るのだが、アメリカ発の工作キットである「Mazey」は、そのような次世代の教育現場を支える重要な役割を担う可能性を秘めたプロダクトだ。
STEAM教育は科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Math)を組み合わせた複合的な学習を進めていくことを指し、STEM教育はここから芸術部門を差し引いた考え方であるが、基本的には同じである。
子供達は科学技術や数学の学習を通じて、批判的思考や創造性を養い、現実社会にも通用する問題解決能力を養うことが求められる。その方針に則った教育を提供するためには、単に方針を決めるだけではなくそのようなプロセスをきちんと子供達になぞっていてもらえる環境を用意する必要があるのだが、Mazeyは電子工作キットというカテゴリーからアプローチを試みている取り組みだ。
Mazeyが対象とするレベルは多岐にわたっている。当初は大学の基礎教養を学ぶ1年生の初学者レベルから、そのままエンジニアリングを学びたいという学生のニーズを満たすまでの年齢層を想定して設計されていたのだが、最終的にはそれより若い児童や歳をとった大人たち、あるいは素人レベルからエキスパートまでと、幅の広い層へ受け入れられる存在となった。
Mazeyはいわゆる迷路脱出ロボットのような存在だ。テレビや学校の教科書などで、ネズミが迷路の仕組みを学習し、少しづつゴールへとたどり着いていくという話を見たことがあるという人は多いかもしれないが、Mazeyはあの取り組みをロボットの学習機能を用いてやらせてみようというものだ。
以下の動画から実際に動作している様子が確認できるが、どのような迷路を用意してもまさに自動的に試行錯誤を繰り返して正解に近づいていく様子は生き物さながらのものであると言えるだろう。
Mazeyのもたらしてきた技術発展や取り組みの洗練プロセスは、2016年のロードアイランド大学におけるカンファレンスでも取り上げられている。以下のリンクからその時に公開されたレジュメを確認することが可能だ。
http://www.scranton.edu/academics/cas/physics-eeng/images/Micromouse%20PosterforASEE.pdf
Mazeyの使用方法もまたそれほどに難しいものではない。複雑な動作が可能な割にセットアップは非常にシンプルで、他のデバイスからコントロールできるよう本体をWi-Fiネットワークに接続させ、ユーザーは手持ちのデバイスからMazeyのLinuxにアクセスし、オペレーテイングシステムを扱い、コマンドを入力するだけだ。
このシンプルな操作を繰り返し取り扱うことで、いわゆるDIY精神をも養っていくことができるようになる。Mazeyに組み込まれたカリキュラムはまさにこのDIYを循環的に行っていけるよう設計されており、180日間の授業を行うのにぴったりのキットに仕上がっている。
Mazeyを用いて実際に教育現場で行っていくのは、まずソフトウェアのダウンロードから始まる。基本的なLinuxの取り扱い方法から学んでいき、Pythonでスクリプトを書きながらMazeyがセンシングや動作を思ったように行えるよう仕上げていく。
そして目的地の概念を持たせるためにナビゲーションのスクリプトを書き込み、そこに決定する能力、アルゴリズムを付与していく。このようなプロセスを順に追っていくことで、基本的なプログラミング言語を取り扱う能力を学び、自分で望みの通りのプログラムを構築する力を養い、想像力で全く新しいものを組み上げていく創造が行われるというのがこのカリキュラムの狙いだ。
Mazeyはエンジニアリング教育のための初歩的な役割を果たすだけでなく、個人のポテンシャルを引き伸ばすために優れた効果を発揮する知育玩具だ。Mazeyを一人でも多くの学生にいきわたるよう努めることで、彼らの学びたいという好奇心を刺激し、より良い教育の好循環が生まれるきっかけとなる可能性を持っているとえるだろう。
Mazeyは現在Kickstarterで出資者を募っており、4万8千ドルの調達を目標としている。集められた資金の半分は電子部品の調達に当てられるなど、利潤よりも法師としての意味合いが強いプロジェクトである。
25ドル以上の出資でMazey本体がリワードとして受け取れるほか、世界各国に発送対応しているため、きになる方は出資してその詳細を確かめてみるのも良いだろう。