IoTセンサーにバッテリーがいらなくなる?電力を生成するEvercell
バッテリーが切れてしまうと充電器がなければ使いたい時に電子機器を使うことができない。「バッテリーの心配をすることなく電子機器を自由に使えたら良いのに」と誰もが思うだろう。
IoTに用いられるセンサーなどについては特にそう思うであろう。IoTの発展が進むにつれ、モノとネットワークが常に接続した状態が望まれているが、現行ではほとんどのセンサーやトランスミッターなどは動作するためにバッテリーを必要とする。
しかし、センサーやトランスミッターなどの機器にバッテリーがいらなくなる日もそう遠くないのかもしれない。
アメリカの非営利団体BRIDG(ブリッジ)と民間企業フェイス・インターナショナルの共同研究開発により、IoTセンサーベースのアプリによって、バッテリーなしにワイヤレスセンサによって動作する『Evercell パワーセル』が発表された。Evercellは切手サイズの小さな部品で、これをIoT機器に使用することによってバッテリーなしに電子機器を駆動させることができる。
Evercellのデモンストレーションデバイスは、機能が低下していない状態では典型的なセンサーに16ヶ月電力を供給するのに十分な電気を生成できることが確認されている。
以下ではバッテリーの必要ないEvercellについて詳しく見ていきたいと思う。
BRIDGとフェイス・インターナショナルとは
BRIDGは非営利団体で、産業主導のスマートセンサーコンソーシアム。
高度なセンサー、光学、フォトニクス、および高度な技術のための官民一体となった団体である。アメリカ・フロリダ州にあるNeo City(ネオ・シティ)という500エーカーの広さがあるテクノロジーディストリクトに設置されている。
https://gobridg.com/
Face Internationalは同じくアメリカ・ネヴァダ州ノーフォークに本社を構える企業で、元々は建設業界を中心にした事業を展開。近年は圧電デバイス、セルフパワーワイヤレスリモコン、クリーンエネルギーハーベスティングといったテクノロジーの開発も行なっており、様々な特許技術を取得している。
http://faceinternational.com/
この二つが共同でEvercellの共同研究開発を今後もおこなっていく。
Evercellとは?またその仕組みとは?
Evercellは安価で生産することが可能で、有毒物質も含まず、動作するための燃料も必要なければ、動作させるためのパーツも必要ない。Evercellを用いることでバッテリーが必要なくなる理由として、Evercellそのもので電力供給をまかなうよう電力を生み出すからである。
電気を生み出す仕組みとして、このEvercellの中で細かい分子がぶつかり合うことで温度が高い分子と温度の低い分子に分かれる。この温度が異なる二つの分子を温度別に違う層に分子を偏らせることによってEvercellの中で電力が発生する、というしくみだ。
これは19世紀にイギリスの理論物理学者Tomas Clark Maxwell(トーマス・クラーク・マクスウェル)によって提唱された理論で、温度の高い分子と低い分子をなんらかの方法で材料の片側にそれぞれ集めることができれば電力を生み出すことができると提唱された理論を参考にしている。分子は常に温度差があるため、測定温度にかかわらずEvercellの中で分子は再加熱され電力を常に自力で供給できるしくみとなっている。
BRIDGが公表している Evercellの資料のなかで第一世代のEvercell製造装置の例として以下のものが紹介されている。
・5μWデバイス
34mm x 34mm x 1mm
1.2V アウトプット
4.2μA 連続電流
・480-nW デバイス
30mm x 30mm x 0.2mm
1.2V アウトプット
400nA 連続電流
・960-nW デバイス
50mm x 75mm x 0.1mm
1.2V アウトプット
800nA 連続電流
https://gobridg.com/wp-content/uploads/2018/01/BRIDG-Evercell%E2%84%A2-Release-Jan-29-2018-FINAL-FOR-DISTRIBUTION.pdf
PowerPulse.netの記事の中では、Evercellの概要として次のようにまとめられている。
1. 知覚可能な温度差のない連続出力(本質的に絶対ゼロ以上のあらゆる環境)
2. ソリッドステート構造
3. スケーラブルな出力で、さまざまなフォームファクタで作成可能
4. 毒性物質なし
5. 低コスト(量産プロセスが確立された場合)
6. 既存の半導体製造プロセスを活用
7. ヘテロジニアスインテグレーション(SiPおよびPCB)に対応
8. IoT用の自己給電型集積回路の設計を可能にする
http://powerpulse.net/harvest-thermal-energy-in-any-environment-to-power-wireless-sensors/
Evercellの量産化計画
ブレークスルー・エネルギーハーベスティング・パワーセルと呼ばれる技術はフェイス・インターナショナルによって開発され、特許を取得している。フェイス・インターナショナルとBRIDGは共同でEvercellの2019年の量産化を目標にしており、NeoCityキャンパスでEvercellパワーセルの製品統合開発とプロトタイプ製造の技術検証をおこなっていく予定だ。
BRIDGは、スマートセンサー、フォトニックテクノロジー、次世代統合デバイスの半導体ベースのプロセスに焦点を当てた109,000平方フィートの最先端の製造施設を持っており、政府および商業市場向けの業界パートナーに革新的なブレークスルーを可能にする。Evercellのプロトタイプの量産化はこのBRIDGが有する施設においておこなわれる可能性がある。
まとめ
具体的な量産化計画は発表されておらず、Evercellを利用する予定の企業リストも報じられていないが、Evercellが実用化されることによってIoT機器のバッテリーの代わりに用いることができれば非常に便利になるのではないだろうか。
Evercellは動作するために特別な部品を必要とせず、自ら電力を生成することができるというユニークな特徴を持っている。大きさも切手サイズと小さいことから、小型のIoT機器にも用いることができるため様々な用途に応用して使えそうである。
このEvercellがIoTデバイスだけでなく、身近なところでスマホのバッテリーなどにも応用することができれば、私たちは頻繁にスマートフォンを充電しなくても良くなるのかもしれない。
またEvercellが普及することで、世界中で使われているIoTデバイスのセンサーやトランスミッターに用いられている古くなったバッテリーを減らすことにもつながることから、環境にも良い影響を与えるのかもしれない。Evercellを廃棄するとなっても、有毒物質を含まないためこちらも環境に優しい。
低コストで量産化可能なEvercellの技術は大きな注目を集めそうである。
https://electronicsofthings.com/news/battery-free-iot-wireless-sensors-bridg/