スクリーンのない映画館?VRシネマを実現するVoyager VR chair
このサンダンス映画祭のなかでVoyager VR チェアを用いた短編映画やアニメを360度全方位から楽しむことができるコンテンツを配信した。
Voyager VR chairは球形のチェアで前後左右に動くことができ、さらにオーディオ機器や人間の嗅覚・触覚にも作用する。VRヘッドセットを装着することでコンテンツを楽しむことができるため、映画館には欠かすことのできないスクリーンが必要ない。いわば、「座席そのものが小さな映画館」となる。
コンテンツに合わせて椅子が動いたり、揺れたり、匂いなど感じることでさらに映画への没入感を高める役割を果たし、映画館でしかできない体験をすることができる。
以下では、Voyagerの特徴についてもう少し詳細な機能について解説していく。
Voyagerの特徴
Voyager VR Chairはユーザーがコンテンツにさらに没入できるよう、観る人の「感覚」に訴える工夫が施されている。
チェアは回転/リクライニング/触覚フィードバック/空間オーディオ/香り技術/モーション同期をおこなうことができる。これら複数の技術を組み合わせることによってVRで流すコンテンツに合わせてより没入感を体験することを可能にする。まコンテンツの鑑賞の妨げにならないようマシンの駆動音を少なくし、動作もスムーズに動くように設計されている。
Positron社の公式ページによると、Voyager VR Chairは今のところイベントの初演や映画祭、VIP向けのコンテンツ上映に向けてサービスを展開しており、このほかにも映画館・ホテル・空港ラウンジ・VRスクリーニングルームでの制作バッチの予約注文がおこなわれているそうだ。
以下の動画はサンダンス映画祭で公開されたVoyager VR Chairの実際の利用風景である。一人一人が球形の椅子に座り、VRヘッドセットを装着して映像を楽しむ。この鑑賞方法であれば他人の話し声や席の移動などに惑わされることもなく、観たい映画に集中できるかもしれない。
参考:vimeo, Voyager VR Chair and The Mummy at SXSW 2017
Voyager VR ChairはVR機器に起こりがちな乗り物酔いや不快感を感じにくい
VRはその没入感から、しばしば流れているコンテンツで起こっていることが本当に自分の身に降りかかってくるように感じることがある。さらに映像に合わせて機器が動くものだと、乗り物酔いに似た症状が現れることがある。しかし、Voyager VR Chairはそのような乗り物酔いや不快感を感じにくい。
最高執行責任者兼共同設立者のジェニファー・ランデル氏は次のように語っている。
「1,500人のデータを集めた後、私たちはVoyagerが不快感や乗り物酔いの決定的に重要な問題を解決することを発見しました。Voyagerは物語にあわせて有機的に接続された穏やかな動きを提供する、他にはない座り心地のVRソリューションです。他のVR機器を利用して乗り物酔いを経験したユーザーは私たちのVRチェアでは乗り物酔いを起こさなかったと報告しています。Voyagerは人々がVRをより多くの感覚で体験するため、またリラックスして夢のような場所に行っている間に現実の身体的な空間を残し、私たちの身体がどれくらい関与する必要があるのかを考慮に入れています。」
https://www.vrfocus.com/2017/01/positron-debuting-its-vr-chair-voyager-at-the-2017-sundance-film-festival/
VR機器を装着して不快感や乗り物酔いを訴える人は少なくない。人によって不快感を感じる程度に差はあるが、VR機器を装着してVRゲームを始めるとすぐに乗り物酔いを起こしてしまう人もいる。Wikipediaには"Virtual Reality Sickness(VR酔い)"という言葉の解説もされている。VR酔いの原因はさまざまな説が存在するが、決定的な解明はまだされていない。VR酔いを起こしてしまったら、すぐにVRの利用を止め休むことが肝心である。
Positron社について
Positronは2014年にアメリカ・ロサンゼルスに設立された比較的新しい企業である。ジェフリー・トラヴィス氏とジェニファー・ランデル氏によって共同で設立された。トラヴィス氏はフィルムメーカー兼エンジニア、ランデル氏はプロダクト・ディベロップメントとヒューマンコンピュータ・インタラクションの経歴がある。
Voyage VR Chairの開発には様々なバックグラウンドをもつスタッフにより作られた製品で、クリエイティブデザイン、ストーリーテリング、またこれまでにないインタラクティブな体験をできるようにコーディングされている。これらを実現させているのはメカトロニクスエンジニア、デザイナー、ソフトウェアディヴェロッパーやアーティストによる集大成だ。
https://www.businesswire.com/news/home/20170119006179/en/Voyager-World%E2%80%99s-Cinematic-VR-Chair-Debut-2017
Voyager VR Chairの価格
Voyager VR Chairの価格は公表されていない。
今のところイベントだけにしか活用されていないが、上にも述べたとおり続々と予約が入っているようだ。Voyager VR Chairの問い合わせや予約はPositron社の公式ホームページからおこなうことができる。興味のある人は問い合わせてみてはどうだろうか。
http://www.gopositron.com/
まとめ
DVDやBlu-rayの普及によって、映画館しかなかった時代のように映画を観るためにわざわざ映画館に足を運ぶということは少なくなっただろう。しかしVoyager VR Chairを活用した映画の楽しみ方がもっと一般的になれば、ただじっと座って観るだけの映画ではなく『VR映画館』がエンタテイメントのひとつとして広がっていく可能性もある。
Voyagerはユニバーサル・スタジオ、IMAX、Intel、Legend VRといった企業のVRプラットフォームとして採用されており、これからの活用が期待されている。
また、Benzingaの記事によると、Positronはサンダンス映画祭においてVoyagerの次世代開発を目的とした140万ドルのシード資金提供契約を発表。この投資によりインタラクティブ性、DoFトラッキング※、香り、風、AIモーショントラッキングなどの機能を発展させるために開発を進めていく予定。さらに、PositronはRalph Smyth Entertainmentとフルモーション映画用のVoyager独自のVRシリーズを共同制作することもあわせて発表している。
(※DoF...被写界深度。Depth of Fieldの略。映像や写真の焦点が合うように見せるための技術。)
https://www.benzinga.com/pressreleases/18/01/p11096538/positron-announces-funding-deal-for-next-generation-of-cinematic-vr-ch
未来には「スクリーンのない映画館」が主流になるのかもしれない。もしくは、このVoyager VR Chairが一般向けにも手に入りやすくなれば、映画館に出向く必要すらなく家で没入感を楽しめるVRホームシアターが楽しめる日が来るのかもしれない。