VRで車をデザインし、AIがエンジニアリングを行う企業「Hackrod」

いわゆる家庭用のレースゲームのような自由な車のカスタマイズは、一度体験したことがある人であれば誰もが面白いと感じ、現実にも同じような仕組みで車を購入できる場があれば良いのにと思ったことがあるだろう。

とはいえあまりにも便利で上手くいき過ぎてしまうと、人は「そんなものは現実ではありえない」と考えてしまうものだが、実際にそのような非現実的なシステムを実現してしまおうというという人たちもいる。

「Hackrod」はそんなゲームやSF映画の世界を実際の自動車開発の現場や購入の際のカスタマイズに導入することにフォーカスを置く企業で、これは未来の技術ではなく既存の技術を応用するだけでも十分に実用可能であるとしている。

新しい自動車産業の創出

Hackrodによると、現代の自動車市場は20世紀にそのシステムが構築されて以来、21世紀になっても全く進化せず、現状に凝り固まってしまっているという。日夜の研究開発を繰り返し、日々新しい技術が生まれているのにもかかわらず、今の自動車産業はそれらを上手く生かせず、個々の最新技術が点と点でバラバラになってしまっているのが現状と言うのだ。

しかしHackrodは、この点と点で持て余されているテクノロジーをフル活用し、それらを線で結んでやることで自動車産業に新しい活路を見出そうとしている。それは例えばVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を使って、バーチャルとはいえまるで本物のような立体感とディテールで顧客の満足のいくような車のデザインを生み出し、人工知能がその自由なデザインにそぐうような安全性と機能性の基準を満たすエンジニアリングを行なってくれると言うものだ。

これをサービスとして提供するためには安定した生産能力と生産のためのシステムを構築する必要があるが、現在Hackrodが集中して取り組んでいるのはこの点にあるといえよう。

車を購入する人がカタログの中から好みのモデルを選ぶと言うよりも、購入者もまた開発チームの一員となり、エンジニアたちとともに世界に一台の自動車を創造する喜びを体感できるというのがHackrodの提案する次世代の自動車産業というところだろう。

そのようなロマンあふれるプロジェクトであると言うこともあり、開発チームにはクリエイティブな経歴を持つ人物が多数見受けられる。

VRで車をデザインし、AIがエンジニアリングを行う企業「Hackrod」

映画の世界を現実にHackrodはもともと「Autonomo」というアクション映画の製作と関わりがあり、AIやロボティクス技術が若き起業家たちに大きな力を与えるという世界観は、Hackrodの今回のプロジェクトにおける大きなコンセプトとなった。

「Autonomo」はHackrodの今回のプロジェクトに大きな影響を与えており、映画で使われたテーマを現実にもたらしたいという思いが大きく現れている。実際に映画の中で使用されたおよそ50の自動車モデルは、実際にこのプロジェクトが進行し、自由に顧客が自動車を選び、作り出す際のデフォルトデザインとして採用されることが決定している。

Hackrodの共同創設者でありCEOのマイク・マッコイ氏は「Autonomo」の製作を指揮した人物で、受賞歴もある名高いエンターテイメントスタジオに10年在籍していた経歴を持っている。有名どころを挙げるなら、日本では2012年に「ネイビーシールズ」というタイトルで公開されたリアル志向のミリタリー映画を監督している点だろう。映画というフィクションの世界を取り扱いながらも、現実でもありえそうなテーマを題材にするという考え方が、Hackrodの今回のプロジェクトにも繋がっていると言える。

他にも世界最大規模の玩具メーカーである「Mattel(マテル)」でミニカーの「Hot Wheel」部門でクリエイティブ職におけるバイスプレジデントを務めていたフェリックス・ホルスト氏が共同創設者であったり、テクノロジーオフィサーのチーフを務めているのが航空機開発・製造のロッキード・マーティンでフェローを務めていたスレイド博士であるなど、人材としての企画力・エンジニアリングスキルにおいても申し分ない。

Hackrodはコンセプトカーとして「La Bandita」を用意している。これは人工知能によって期間部分はデザインされ、最新のマニファクチュアリング技術で製造されることを想定して生まれたプロダクトで、美しい流線的なデザインと複雑に構築された内部機構が特徴である。


現在はデジタル世界の存在にすぎないが、HackrodはLa Banditaを現実世界で生産することをファーストステップとして構想している。最小の目標である5万ドルの出資金を集めることができれば、進捗を得るために2万ドルをエンジニアコンサルタントの雇用に使用し、さらに2万ドルを研究と開発に当てるとしている。

そして最大の目標金額である1007万ドルを集めることができれば、COOやデジタルデザイナー、ストラクチャーエンジニア、さらなる研究開発など、人材の確保と大規模な研究で前進することができるとのこと。

ビジネスモデルとしては、構想中の自動車モデリングプラットフォームのサブスクリプション制度において、データストレージ拡張機能から月額5ドルの徴収、そしてプロレベルのグレードでさらなる機能性を提供するとともに5ドルよりも高額の料金を徴収するものが一つ。

そしてもう一つがデータ上の自動車を現実に生産するにあたっての手数料を10%徴収するというものだ。

もしこのプロジェクトが現実のものとなれば、世界中で新しい機械産業が発足する大きな足がかりとなるだろう。