ARは写真の常識を変える?
ドイツ・ベルリン発のColormass
しかしネットショップで販売される商品は、すべて写真を撮る必要がある。異なる色や素材に合わせて、形の少し異なる商品も別に撮影し、また他の色サンプルも撮影するとなると、膨大な量の写真を撮らなければならないため気が遠くなるだろう。これらの写真の管理も大変だ。
「同じ商品であれば形は同じだから、色や素材を適用するだけの技術があれば楽になるのに」と思う人もいるだろう。
これが、AR(Augmented Reality:拡張現実)で可能なのだ。
ドイツ・ベルリンに本社があるcolormass(カラーマス)は「Virtual Photoshoot」というサービスを展開している。
このVirtual Photoshootがどのようなサービスであるのか以下で説明していきたい。
Virtual Photoshootとは何か?
Virtual Photoshootを一言で表すと、「商品の着せ替えがバーチャルで行える」こと、また「商品が異なる空間にあるシミュレーションを行うことができる」ことだ。しくみはこうだ。
ある商品の写真をcolormassに画像ファイルを添付して送信する。商品の色や素材が異なる場合はサンプルをcolormassに追加で送信する。この画像を元にして、colormassが元の写真を参考にして3D処理を行い、異なる色や素材の商品を見ることができる。
Virtural Photoshootはどこで活用される?
このVirtual Photoshootはどのような場面で活用されるのだろうか。活用できるシーンは主に2つ挙げられる。
①ECサイト
オンライン上で買い物ができるネットショップ今やすっかり便利な買い物方法として定着したが、商品数が膨大になると写真を管理するのが大変になる。商品の色違いや素材違いをすべて撮影していくのは時間もコストも人手もかかる。Virtual Photoshootを使えば、サンプル画像を送信するだけで画像処理を行うため、撮影に必要な手配から撮影プロセスを省くことができる。
②住宅ショールーム
実際の生活空間のイメージがしづらい住宅展示場のショールーム。Virtual Photoshootでは欲しい商品を部屋の中に置いたイメージを見ることができる。特に家具は色違い、素材違いで部屋の印象が大きく変わるので、商品を購入する前にどのような印象になるのか見ることが可能だ。これによって購入後の買い物の失敗をなくすことができる。
Colormassのウェブサイトには家具の他にライトや壁紙など、様々な項目でシミュレーションが行えることを示している。
3Dイメージによるシミュレーション
colormassの技術としては3Dイメージ技術だ。アルゴリズムを用いてバーチャルで商品の色や素材を変えたり、バーチャルの部屋の中で家具の配置を変えることができたり、家具を置いたイメージを見ることができる。
Techcrunchの記事によると、colormassは3Dイメージ処理を行うFoldiと手を組んで3Dイメージ技術を活用していく方向だ。
https://techcrunch.com/2017/09/18/goodbye-photo-studios-hello-colormass-virtual-photoshoots/ )
colormassの技術は特に家具メーカーやアパレル分野で重宝しそうだ。
ARで広がる可能性、IKEAのシミュレーションアプリ IKEA Place
世界的にも有名なスウェーデンの家具販売のIKEAは、家具の色を変えたり配置も変えることができるアプリを発表している。その名も「IKEA Place」だ。
https://techcrunch.com/2017/08/29/a-preview-of-the-first-wave-of-ar-apps-coming-to-iphones/ )
IKEA Placeのアプリをダウンロードし、カタログから気に入った商品を選ぶことで家具を置きたい場所に配置することでシミュレーションすることができる。スマホ上のカタログから家具を選択すると、スマホが映している部屋の風景のなかに家具が配置される。角度を変えたり実際に家具に近づくことも可能だ。ARで表現される家具は実物大のため、実際に家具を置いた時のイメージがしやすくなる。また、シミュレーションした画像はそのまま添付ファイルとして送信することができる。
このアプリの技術も非常にシミュレーションにおいて役立つとは思うが、colormassのAR技術と比べると多少画像のクオリティにおいて不自然さは残る。あくまでもお手軽なシミュレーションとして用いるアプリという印象だ。また、このアプリはあくまでもIKEAの家具を売るための、IKEA独自の技術だ。他の家具店がこうしたシミュレーションができるアプリを利用したくてもできない点で言うと、colormassのAR技術はシミュレーションを行いたい企業のニーズを汲み取ることが可能だ。
ColormassのB2Bに向けたサービス展開は中期的なゴール。長期的ゴールとは?
ColormassのB2B向けサービスはあくまでも中期的なゴールであり、長期的なゴールはまた別にある。Colormassの共同設立者であるBalint Barlai氏は、Techcrunchの記事によると長期的なゴールとして以下の目標が挙げている。
( 出典:Techcrunch Japan、写真スタジオよさらば、colormass仮想写真ツールの登場
http://jp.techcrunch.com/2017/09/19/20170918goodbye-photo-studios-hello-colormass-virtual-photoshoots/ )
同社が目指すところは3D画像の巨大なライブラリを作ることだそうだ。もしこれが実現するとなれば、現在展開している商品の色や素材を変えることや家具の配置イメージをシミュレーションすること以外にも様々なシチュエーションでAR技術を体験できることになる。実際どのようなサービス展開になるかは不明であるが、非常に面白く興味深い発想だ。3D画像コンテンツが増えることで、実際に写真を撮らずとも画像を合成可能で、リアルな画像を作成することができる。コンテンツが順調に増えていけば、写真を撮りたいと望む人は別として、商業的な写真を撮る機会は少なくなっていくのかもしれない。企業にとってこうした技術を活用することで広告費や手間がかからなくなるのであれば、積極的に利用したくなるのではないだろうか。
髪の毛のカラーを変えたり、写真にスタンプを押したりできるスマホアプリやゲームといった分野ですでにARは私たちの生活に浸透している。
Colormassの画像処理技術が今後どのような利益を人々にもたらすことになるのか、期待が高まる。