ヨーロッパにおいて電気自動車充電器の整備が進む理由

近年は電気自動車(EV)を購入する人が徐々に増えており、EVのバッテリーを充電するための充電スポットの整備も必要になっている。EVのメリットはガソリン車と違い有害な排気ガスを出さないため環境にやさしく、またガソリンを購入するより経済的である点だ。

EV車が徐々に普及している理由として、石油資源に依存しないエネルギー利用が必要であるという意識が高まっていることがある。

世界初の量産型EVとして登場したのが日産のリーフ。それから次々にEVが生まれ、既存の自動車製造会社が電気自動車を生産・販売を行っているが、中でも注目されているのがアメリカに本社を構えるテスラモーターだ。あらゆる商品の評価付けを行っている非営利団体Consumer Reportの調査によると、テスラモーターズ製のType Sの顧客満足度は98%※とEVの中でも軒並み評価が高い。またテスラモーターが注目される理由として、同社が目指すところが自動運転のできる車の開発であるからだ。
※当該車種を購入したユーザーに、「将来もう一度同じ車を買いたいと思うか」という質問を実施。

( 参考:insideEV Consumer Reports: Tesla Model S Rated #1 In Customer Satisfaction
https://insideevs.com/consumer-reports-tesla-model-s-rated-1-in-customer-satisfaction/)

世界では熾烈なEV開発が進められている。

以下の図はInternational Energy Agencyが公表している資料で、2010年から2016年までの世界におけるEVの保有台数を国別に示している。

2017110604.png ( 出典:International Energy Agency, Global EV Outlook 2017 https://www.iea.org/publications/freepublications/publication/GlobalEVOutlook2017.pdf)

全世界でのEVの保有台数は約200万台だが、これからもこの数は伸びていくとされている。保有台数が一番多いのが中国でその次にアメリカ、日本と続き、ノルウェー、オランダ、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデンのヨーロッパ各国が順に並んでいる。ヨーロッパをひとまとまりとして見ると、中国、アメリカに次いだ大きな市場規模だ。

ロイター通信のこちらの記事によると、主にドイツの自動車会社のグループがEVのための高速充電器をヨーロッパにおいて2020年までに400個設置することを発表したと述べられている。テスラモーターズのリードを弱めるためであると記事の中では述べられている。

ヨーロッパの自動車製造企業で構成される合弁会社IONITY

ドイツの自動車会社のグループとは、具体的に言うとBMW、フォルクスワーゲン、ポルシェ、アウディ、ダイムラー、フォードだ。ヨーロッパにおけるHigh-Power Charging(HPC)をはじめとしたEV用充電器ネットワーク設置のために2017年3月に設立された合弁会社IONITY(イオニティ。本社はドイツ・ミュンヘン)の参画企業である。

IONITY公式HP
http://ionity.eu/ionity-en.html#whoweare

Combined Charging System (CCS) テクノロジーを用いることで、最大350kwの電力で急速チャージできる。これはテスラモーターズの充電器の3倍である。

ロイターの別の記事では、IONITYの最高経営責任者のマイケル・ハジェス氏の発言について述べられている。

"The first pan-European HPC [high-power charging] network plays an essential role in establishing a market for electric vehicles," Ionity CEO Michael Hajesch said on Friday. He added that the fast-charging stations would also offer digital-payment capability.

(訳:IONITYの最高経営責任者、マイケル・ハジェス氏は金曜日に「初の汎欧州のハイパワー・チャージングネットワークは、EV車市場の確立において不可欠な役割を果たします。」と語った。彼はさらに、高速充電ステーションはデジタル決済機能も備えていることを付け加えた。)

( 出典:Reuters Carmakers launch pan-European charging network
http://uk.reuters.com/article/electricity-autos-charging/carmakers-launch-pan-european-charging-network-idUKL8N1N88RI )

欧州ではデジタル決済を利用する人が多く、IONITYの高速充電器がデジタル決済機能を備えていることは利用者の利便性を高めるため、総合的に考えて欧州の自動車会社の車を購入するという人も出てくるだろう。

IONITYはTank & Rast, Circle K, OMVと協力してドイツ、ノルウェー、オーストリアにおいて75マイル(約120km)間隔で最初のCCS技術を搭載した高速充電器をまず20台設置する予定だ。

ヨーロッパにおけるEV用充電器の種類と設置数

ところでヨーロッパにおけるEV用充電スポットは現在どれくらいあるのだろうか。以下の資料はヨーロッパの代替エネルギー政策についての調査機関であるEuropean Alternative Fuels Observatory (EAFO) が公表している、ヨーロッパ33カ国におけるEV用充電器の数量である。

2017年のデータを見ると、ほとんどが22kWの通常充電器104,656台、Type-2ACが3,298台、CHAdeMOが4,530台、CCS(COMBO)が3,554台、Tesla SCが2,093台である。圧倒的に通常の充電器が多い。Tesla SCはテスラ自動車の独自規格であるが、単体の自動車会社独自の規格でこれだけの数があるのは欧州の自動車会社にとって懸念事項だろう。IONITYが2020年までに400台のCCSを設置するのには、やはりテスラモーターズの追随を引き離したいという思惑があるのだろう。

2017110605.png ( 出典:European Alternative Fuels Observatory (EAFO) Electric vehicle charging infrastructure/Total number of PEV charging positions
http://www.eafo.eu/electric-vehicle-charging-infrastructure )

日本のEV車に用いられる高速充電器CHAdeMO

一方で、このCCSと異なる規格の充電器を用いているのがTOYOTA、日産、MAZDA、HONDAなどの日本の自動車会社である。これらの自動車会社が販売しているEVに対応している高速充電器はCHAdeMO(チャデモ)と呼ばれる別の規格の高速充電器。CHAdeMoは最大150kwの出力が可能。2020年頃には最大出力350kwの急速充電器がリリースされる予定だ。

CHAdeMOでEVを高速充電する場合、通常であれば約30分の充電時間が必要だが、HONDAが現在開発中の車種では同じCHAdeMOを用いて約15分で240km走行可能な車種を2022年に発売する予定だ。

日本経済新聞 ホンダ、EV充電時間を半減 複数車種で22年メド
https://www.google.de/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=newssearch&cd=1&cad=rja&uact=8&ved=0ahUKEwi56cC5w6TXAhWPCOwKHbGGDUoQqQIIJigAMAA&url=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXMZO22990450R01C17A1MM8000%2F&usg=AOvVaw3ESr2KAXyugKmNVIWXJk2z

自動車のバッテリーに用いる充電用電池の開発も各企業で進められている。「いかに短い時間で充電でき、長い距離を走行できるか」が世界の自動車会社間の競争における争点である。

より短い充電時間、より長い走行距離のためには新しい電池の開発が急務

EVの普及には高速充電器の整備ももちろん必要だが、新しいバッテリー電池の開発も並行して進んでいる。最近のEV関連のニュースだと以下のものがある。

東芝は6分間で充電できる電気自動車(EV)用のリチウムイオン電池を開発した。負極の材料にチタンとニオブの酸化物を使い、結晶がきれいに並ぶように合成することで、体積あたりの容量を2倍に高めた。短時間の充電で実用的な水準の320キロメートルを走行でき、EVの利便性が高まるとみている。2019年度の実用化を目指す。
( 出典:日本経済新聞 東芝がEV用電池開発 6分で充電 320キロメートル走行
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO2176148001102017TJM000/ )
( 参考:日経ビジネス DIGITAL EVの電池革新でトヨタに挑戦 自動車産業の秩序を壊す新星、英ダイソン
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/100300759/?ST=pc )

2019年にはLG化学がポーランドにEV用電池工場を開始予定

LG 化学がポーランドにヨーロッパ最大のEV用リチウムイオンバッテリー電池製造工場を2019年にスタートさせる予定だ。
( 参考:Techcrunch  LGがヨーロッパ最大のEV用電池工場を来年ポーランドにオープン
http://jp.techcrunch.com/2017/10/13/20171012lg-to-open-europes-largest-ev-battery-factory-in-poland-next-year/ )

ロイターの記事によると、この工場はポーランドのヴラツワフという場所に建設され、1年間でEVバッテリーを10万台分製造することが可能。ヴラツワフはドイツ国境から190kmの位置にある。フォルクスワーゲングループはゼロ・エミッションの車の製造のため2030年までに200億ユーロ以上を投入する予定で、2025年までに300万台を製造する予定である。

今までヨーロッパにこれほど大規模なEV用バッテリーの工場はなかったため、LG化学の工場が完成することで欧州の工場向けに安定的にEV用リチウムイオンバッテリー電池の供給を行うことができる。
( 参考:Reuters LG to open Europe's biggest car battery factory next year
https://www.reuters.com/article/us-lgchem-factory-poland/lg-to-open-europes-biggest-car-battery-factory-next-year-idUSKBN1CH21W )

EVに関するニュースは毎日のように出てきている。世界の自動車会社間における熾烈なEV市場の競争はこれからも当分は続きそうである。