インダストリー4.0ヨーロッパの製造技術最新情報【後編】

前編ではドイツの製造業におけるIoTを活用した技術について触れたが、欧州ではドイツのIndustry4.0に習うかのように各国でIoT戦略を打ち出している。以下ではイタリア・フランスが打ち出しているIndustry 4.0について触れたいと思う。

イタリアのIoT戦略とは?

イタリアでもIndustrial Plan 4.0という国家戦略がある。JETROが発表している欧州各国の産業デジタル化推進策とIoT導入事例という資料によると、イタリア版industry 4.0についてこう書かれている。

顧客にドイツ企業を多く持つイタリアの製造業にとって、ドイツ発の「インダストリー 4.0」への対応は必須だ。産業団体はイタリアにおける IoT(モノのインターネット)対応 の遅れを指摘しており、政府は 2017 年予算に企業の生産性向上のための経費を計上した。
( 出典:JETRO, 欧州各国の産業デジタル化推進策と IoT 導入事例
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/1a84f835a1faf51a/20160123.pdf )

イタリアのIndustrial Plan 4.0は、設備投資における減価償却についての設定や、研究開発費における優遇対策などが行われる。

イタリアのIoT戦略Industrial Plan 4.0の内容

ドイツのIndustry4.0はIoTの活用によって、機械や部品をつなぎ作業効率を上げることが目的であるが、イタリアの場合はIoTを活用するための設備投資を行いやすくすることを目的としている。2017年2月に発表されたイタリアのIndustrial Plan 4.0はドイツのIndustry 4.0とは性質が異なる。Industrial Plan 4.0の具体的な取り組みは以下4つがある。

a public investment of about 20 billion euros
a super and hyper amortisation of 140% and 250%
a 50% tax credit on R&D investments
incentives on investments in start-ups and innovative small businesses

・約2,000億ユーロの公共投資
・140%もしくは250%のスーパー・ハイパー減価償却
・R&D(研究開発)投資における50%の課税
・スタートアップや革新的な中小企業への投資におけるインセンティブ
( 出典:Ministry of Economic Development, National Industry 4.0 Plan
http://www.sviluppoeconomico.gov.it/index.php/en/202-news-english/2036690-national-industry-4-0-plan )

これらの取り組みを行うことによってIoTを活用した産業の活性化を図ろうとしているが、イタリアのIndustrial Plan 4.0がイタリアの経済発展にどれほどの効果をもたらすかは未知数だ。

イタリアの企業 Eurotech

イタリア・ミラノに本社を構えるEurotech(ユーロテック)は、様々な業界においてIoTソリューションを提供する企業である。Eurotechがカバーしている分野は以下の業界である。

・製造業
・ロジスティクス
・輸送&モビリティ
・医療
・セキュリティ
・防衛&航空

公式ホームページに掲載されているニュースによると、Eurotechは同じくイタリアに本社のあるTecnestとの合意によって、製造業の工場における業務効率化を10%以上向上させることができると記載されている。

2016年9月8日 アマロ(イタリア)
スマートデバイス、M2Mテクノロジー、IoTソリューションのリーディングサプライヤであるEurotechは、製造管理やサプライチェーン業務の情報・組織ソリューションを得意とする、イタリアのTecnest社と合意したことを発表しました。
(中略)
EurotechのCEO、Roberto Siagriは次のように述べています。「弊社のIoTツールやテクノロジーは、さまざまな分野で利用できます。Tecnest社との合意は、Factory 4.0向けソリューションを開発する製造業にフォーカスしています。推計によると、今後工場のデジタル化は10%以上の効率化が期待できます」
( 出典:Eurotech, Industry 4.0:IoTを活用したスマートファクトリー
https://www.eurotech.com/jp/press+room/news/?671 )

同社の取り組みはIndustry 4.0を意識しており、IoTを活用した業務効率化を提案している。これからの取り組みも期待できる。

フランスのIoT戦略 Industry of the Future

フランスにおける製造業の発展はあまり芳しくないと言って良いだろう。ここ10年の間にフランスの製造業は目覚ましい発展を遂げることなく、2006年のリーマンショック後には急激に景気が落ち込んだ。フランス政府はIndustry 4.0を好機として、政府が主体となって中小企業のIoT化を進めるため資金を援助する方針をとっている。フランス版のインダストリー4.0は、Industrie de Furtur と呼ばれている。中小企業は、必要であればフランス公共投資銀行から資金援助を受けることができる。

インダストリー4.0ヨーロッパの製造技術最新情報【後編】 ( 画像出典:フランス経済省、Industry of the future https://www.economie.gouv.fr/files/files/PDF/pk_industry-of-future.pdf )

フランスのIndustry 4.0は、「新資源」「スマート・シティ」「エコ・モビリティ」「交通」「未来の医療」「データ・エコノミー」「スマート・デバイス」「デジタルにおける自信」「スマートな食の選択」の9つの分野において産業の活性化を目指す。

ITx農業を実現したスタートアップAgricool

フランスは意外に思うかもしれないが、農業大国である。
近年はITx農業を組み合わせたスタートアップが誕生しており、例を上げるとすればAgricool(アグリクール)という企業がある。Agricoolが行っていることは、コンテナで農作物を育てることだ。

このAgricoolのコンテナが優れている点は、遠隔地からでも空調やライトの設定が行えることだ。またパリのような都市部の農地が縮小しているところであっても、コンテナを置くことで新鮮な農作物を多く育てることができる。スタッキングも可能だ。

今は遠く離れた国からの農作物も簡単に手に入れることができるが、特に輸入農作物は収穫されてから店頭に並ぶまで長い距離を移動するため、その間に傷まないように特別な農薬が使われることが多い。Agricoolが広く利用されるようになれば長い距離を運ぶために農薬を使う必要がなくなり、運送にかかる時間を短縮できる上に運送にかかる人件費や燃料費も削減することができるというメリットがある。

また殺虫剤を用いず、太陽光パネルによって作られた電気によって動いているLEDライトが日光代わりである。農作物にとって最適な遮光/採光条件をコントロールすることができる。さらに通常の栽培方法で育てられた農作物より水や養分の使用を90%削減することができ、農薬を使用していないため農作物を洗うことなく使うことができる。有機野菜や新鮮な野菜への需要は高まっているので、まさにこのような企業は時代のニーズにマッチしていると言えるだろう。

Agricool公式ホームページ
https://en.agricool.co

ヨーロッパにおけるIoT戦略は様々である。
ドイツをきっかけとしてヨーロッパ各都市にIoTを取り入れる動きが波及した。ものづくりに強いドイツがさらにIoT戦略を掲げたことによって、他国もこのモデルに続いた。ドイツのIndustry 4.0は長いスパンでのIoT戦略であるので結果が出るまでにはまだ時間はかかるが、この取り組みが成功するかどうかによって今後のヨーロッパの経済発展も左右されるといって良いのではないだろうか。

ドイツをはじめとしたヨーロッパ各国のIoT戦略は採用されるべくして採用されたという印象である。製造業においては安い部品を仕入れるために人件費の低い発展途上国に製造拠点が移っているため、これをヨーロッパに戻すことは現実的ではない上に、高いコストがかかることは容易に想像できる。IoT戦略を成功させることこそ、ヨーロッパの国際的な競争力を高めると期待されている。Industry 4.0がヨーロッパの経済発展にどのように影響するのか、今後も目が離せない。