インダストリー4.0 ヨーロッパの
製造技術最新情報【前編】

2000年代前半まで経済成長率がマイナス続きであったことから「欧州の病人」とまで呼ばれたドイツ。しかしその後の政策を大きく転換させ経済回復を果たし、欧州において強い影響力を持つようになった。

ドイツと言えばものづくりにおいて非常に高い技術を持っているが、世界規模で見るとものづくりの拠点は安い労働力の発展途上国に生産拠点を置くところが多くなっている。ドイツの経済は回復したものの、将来の経済発展を見据えてテコ入れを行う必要があった。

2011年、ドイツ政府はドイツ連邦教育科学省とドイツ工学アカデミーが主体となって「Industry 4.0」を打ち出した。Industry 4.0の目標は「IoTを取り入れることによってドイツの国際競争力を高める」ことだ。2010年に発表されたハイテク戦略計画2020では、10年から15年のスパンで「気候・エネルギー」「健康・食品」「モビリティ」「セキュリティ」「テクノロジー」に重点を置いた戦略が発表された。

Industory 4.0に参加しているのはドイツ連邦教育科学省とドイツ工学アカデミーの他にSAP、General Electric、シーメンス、ボッシュ、CISCOなどの大企業だ。政府と大手企業が手を組んで取り組む大掛かりなテクノロジー戦略だ。

Industry 4.0の目指すところを具体的にいうと、製造業において全てのモノをIoTによってつなぐことである。前編では、ドイツにおけるIndustry4.0における製造技術の情報を見ていきたい。後編では、ドイツ以外の欧州諸国のIoT戦略について触れていきたいと思う。

シーメンスのアンバーグ工場では製造プロセスの75%がオートメーション化済み

シーメンスはドイツの電子機器企業である。日本では「シーメンスの補聴器」でおなじみだが、シーメンスは自動車部品や機械部品、コンピュータ部品や半導体部品など様々な業界で用いられる機械部品・工業部品を製造している。Forbesが行った業種を問わない「世界の信頼できる企業ランキング」において1位を獲得している。

( 参考:CEO World Magazine, These Are The World's 20 Most Trusted Companies For 2017 On Forbes Top Regarded List
http://ceoworld.biz/2017/10/13/forbes-worlds-top-regarded-companies/ )

シーメンスはアンバーグ工場では1,000以上の製品が製造されているが、工場のオートメーション化とデジタル化が進められた。Automation Worldの記事によると、ドイツのアンバーグ工場ではprogrammable logic controls (PLCs)という部品が製造されているが、製造プロセスの75%はすでにオートメーション化されている。工場において製造された製品の合格比率は99.99885パーセントという非常に高い数値を出している。この工場では毎年1,500万台の製品が製造されているが、この工場が230日稼働する場合1秒に1個というペースで製品を製造していることになる。人が製造に関わるのは最初の工程で、あとは裸の回路基盤を製造ラインに配置するだけだ。その後の製品のチェックは監督者が行う。

シーメンスでは工場のオートメーション化の他にも様々な新しい技術の開発に取り組んでいる。
( 参考:Automation World、Siemens Positions Itself as an Industry 4.0 Example
https://www.automationworld.com/siemens-positions-itself-industry-40-example
Siemens, Fact sheet: Amberg Electronics Plant
https://www.siemens.com/press/pool/de/events/2015/corporate/2015-02-amberg/factsheet-amberg-en.pdf )

Schaefflerの5つのIoT戦略

Schaeffler(シェフラー)はドイツで有名な自動車機械や産業機械を製造する企業だ。
SchaefflerはIBMとタッグを組み、IoTにおいて5つの戦略を持っている。以下はEngineering.comの記事を翻訳してまとめたものである。

1.風力発電におけるメンテナンスを最適化

風力発電の重要な部品にセンサーを取り付けることによって、リアルタイムで風力タービンに関する情報を処理することができる。SchaefflerとIBMは風力タービンを利用して、機械学習が様々な運転条件で装置の性能に関する追加の洞察がどのように明らかになるかを探る予定だ。IBMの風力予測を用いて、タービンのオペレータは風が弱い期間に部品を交換することができる。

2. 鉄道車両のデジタライズド・モニタリングと最適化

Schaefflerはクラウドの認知的洞察を利用し、鉄道の予測保守システムを高め、効率性と安全性の改善を助けることを目指している。スマートベアリングが振動を測定し、温度、トルクやスピードトリガリングアラートが鉄道オペレータに可能性のある安全問題について知らせる。

3. 車に接続

IIoT(Industrial Internet of Thingsの略。産業IoT)はSchaefflerに機能的また自動車業界にとっての構成部品の寿命を延長することを可能にする。リアルタイム分析と認知システムはコンポーネントとシステムからのデータを自動車の安全性を高めるため、また消費者に新しい付加価値サービスを提供するため、メーカーにとって貴重な洞察として活用することができる。言い換えると、IIoTは工場のドアを超えて品質保証を拡張することができる。

4. インダストリー4.0のための機械ツール

製造における効率を改善するために、SchaefflerのIndustry4.0戦略はデータのリアルタイム分析と生産ライン内のコンテキスト駆動型保守、ネットワーキング、機械の最適化を含んでいる。

5. 接続機器運用センター

Industry 4.0と関連して、数千もの機械やオンサイト・オフサイトの機器に至るまで監視することができる。データはオペレーションセンターに送信でき、またクラウドで処理することができる。アルゴリズムや認知的アプローチは機械のパフォーマンスを予測するため、また最適化のための機会を生み出すために分析をおこなうことができる。不規則性や潜在的な可能性を自動的に特定し、素早く対応するアクションを開始することができる。

ShaefflerのCEO/CTOのPeter Gutzmer氏は、以下のように語っている。

「私たちは部品自体が監視やパフォーマンスの評価を行うことができ、かつ必要な時に自らを交換するオーダーを出すこともできる時代に突入しようとしています。Shaefflerは製品開発と製造において、またIBMはハイブリッドクラウドと認知コンピューティングにおける世界的リーダーです。このパートナーシップを通して、私たちは新しい産業の時代を築いていきます。」
( 参考・出典 Engineering.com, 5 Examples of How the Industrial Internet of Things is Changing Manufacturing
https://www.engineering.com/AdvancedManufacturing/ArticleID/13321/5-Examples-of-How-the-Industrial-Internet-of-Things-is-Changing-Manufacturing.aspx)

シーメンスはオートメーション化とデジタル化を進めることにより、作業効率の上昇と高い水準の品質保証を同時に成功させている。
シェフラーは5つの戦略を以って部品とモノをつなぐ取り組みを行う予定だ。どちらの企業もIndustory4.0を意識した技術開発を行っている。

シーメンスやシェフラーの他にもドイツの企業においてIndustry 4.0を意識した取り組みは活発に行われている。各企業がそれぞれ独自のIoT戦略を打ち出して実行しているところだ。Industry4.0はドイツから波及して、他の国にも影響を与えている。後編では、イタリアとフランスのIndustry 4.0について述べていく。