最近では様々なブランドから様々な商品が販売され、価格も安価なものもあれば高価なものもあります。
実際にランドセルを生産できる工場は28社程度です。
特殊な技術や機材を必要とする為、新規でファクトリー参入する企業は基本的に皆無でしょう。
また、少子化による市場の縮小は、この業界では深刻な問題です。
株式会社榮伸 取締役工場長 武田 信隆氏のご協力の元、この日本独特のマーケットや生産の仕組みを探ります。
特殊な機材と技術を必要とするランドセル生産
株式会社榮伸 取締役工場長 武田 信隆
根本的にランドセルの形は特殊です。
ランドセルは、明治20年大正天皇が皇太子の頃、学習院小学校のご入学祝いに時の総理大臣であった伊藤博文が箱型の通学鞄を献上したものが始まりとされています。
その時から現在まで基本は変わらない形状で、その特殊な形を生産するために特殊な機材と技術が必要です。
使用する牛革などの天然皮革は部位によって繊維の絡みと流れが違うため、それを見極めながら1枚ずつパーツの型入れを行わなければなりません。人工皮革なども巻き取りのテンションやその日の気温や湿度によっても大きく伸び縮みをしてしまいますので、環境毎の見極めが重要となってきます。
使用するミシン糸は0番手から20番手まで多岐にわたり必要に応じて使用され、ミシンも業務・工業用を使用しており、各工程に合わせて特殊な改造しなければ使用できない造りとなっております。
これら機微の積み重ねの技術がランドセルづくりには重要になってきます。
このようなランドセルの自社工場を保有するメーカーは国内で28社(2017年現在)存在しており、日本国内の毎年の新入学児童数のすべてに供給させて頂いております。
榮伸では年間約10万本のランドセルを製造販売しており、全国の百貨店を中心としたOEMやオリジナルランドセルまで多岐にわたって作っております。
スタンダードの学習院型だけでなく、より収納力が進化したE-QBE型も多く生産しており、バリエーションに富んだラインナップ構成となっております。
工場のある福島県泉崎村では昨年度から新入学する子供たちに向けて、村としてランドセルを贈りたいとのご相談を頂き、ご協力をさせて頂いております。 地元と共に歩む企業としてこのような形で協力と信頼を頂けるのは嬉しい限りであります。
ランドセルファクトリー=自走する集団へ
工場は従来から部長の指示によって行動する体制でした。しかし、昨今のランドセルの作り込みが多様化するにつれ複雑化し、且つユーザーから求められる品質要求も高くなっていることから、部長統率の体制では対応に限界を感じていました。
そのためには、工場で働く工員一人一人が誰かに指示されるのではなく、自らが考えて相談して行動(解決)出来る人材に変わらなければならない。所謂【自走する集団】と変化しなければならないと考え、工場の目標として掲げました。
その様に変革するためには三つの行動指針を掲げました。一つは《一日の数値目標》を掲げました。
そしてその数値における根拠を全員に理解して貰うよう説明しました。
その上で「どうすれば目標達成できるか」を各セクションで話し合い、セクション内の目標を全員の前でシェアして貰いました。
誰が与えられたのではなく、自分たちで掲げたからには達成しなければなりません。そのようにチームとして、個人としての両側面から責任を持つように促していきました。
二つ目は《品質=ロス低減》を掲げました。
自分たちが作っているランドセルという製品がただの学童鞄としてではなく、祖父母、ご両親達からの希望が詰まった贈り物であること、そして私たちにとっては10万本生産した内の1本であったとしても、お客様にとっては人生で1本しかない大切なモノであることを説明し、理解して貰いました。
その上で品質委員会を設置し、生産上での疑問や不明点などが出た場合は随時招集し解決策を講じる様にしました。こうすることで一部の部課長の判断ではなく、働く全員で監視し合う体制と変えていきました。
三つ目は挨拶や5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)などを基調とした《規律》を掲げました。
年々増産していく中で、人が増えていき世代の幅も広がれば関係性も希薄になってしまうことは必然でした。
だからこそチーム内のコミュニケーションを促進する必要がありました。そのために安全衛生委員会を設置し、月に1回5S活動を実施し、風紀を監視させ、意見を吸い上げる様に会議を催しました。
そのようにして馴れ合いではなく、自分達で抑止し合い、監視し合う体制を作りました。
このような取り組みを一年間かけて全員で考え、相談し、行動しては改善を試みた結果、対前年比123%の生産量増加を達成するに至りました。
高価なランドセルがなぜ売れる?
日本ではもう20年以上前から少子高齢化が大きな問題となっております。小学校の新入学児童数もかつての260万人以上もあったころに比べると半分にも満たず、100万人強となっています。
ある意味でランドセルにとっては危機的状況を迎えていてもおかしくないはずです。しかし、それにもかかわらずランドセルは話題となっており、且つ高額化しています。
これは状況を鑑みればそれなりの事情が見えてきます。特に少子化が進んでいることで子供は1人か2人という家庭が多く、そしてその子供の両親にそれぞれの親がおり、一人の子供に多くのスポンサーがいるケースが見られ、それが高額化の底支えをしているのです。
裏を返せばそれだけのスポンサー達と両親の期待と希望が詰まったのがランドセルなのです。当然品質に対してはより高いものを求められてきます。
そして黒と赤色が中心でほぼ同一規格のランドセルしか選択の余地がなかった昔とは異なり、多色化やデザインによる差別化が図られ、消費者が好みのランドセルを選べる時代になりました。ランドセルづくりにはそれらすべてのニーズに応えられる技術が求められます。
榮伸はその期待に応えるべく日々精進してモノづくりをしています。