デジタルトランスフォーメーションによる
ビジネス革新とソーシャルインパクト

~日本の社会が抱える課題解決を図るSociety5.0を目指して~
ビジネストランスフォーメーション(DX)は、昨今IoT、インダストリー4.0などの台頭により、ビジネス全体を変革することが期待される大きな潮流となりつつある。米国のグローバル企業の多くでは、経営トップ自らがビジネスの成長を牽引する経営戦略の柱としてデジタルトランスフォーメーションを推進し、DX戦略の推進に特化した部門および役職(CDO)を新たに設置している。一方、日本では、世界に事業を展開するグローバル企業であっても、「経営戦略の柱」としてDXを推進する企業は限定的で、情報システム部門の仕事の一部として位置付けているケースが多いのが現状だ。多くの日本企業にとって、DXへの対応が今後大きな課題となる一方、DXへの対応が従来の守りのIT投資から、ITを活用してイノベーションの創出やビジネス拡大を目指す「攻めのIT投資」に転換するための大きな機会となることが期待される。

IT Forum & Roundtable事務局では、4月12日東京都霞が関のイイノホール&カンファレンスセンターでデジタルトランスフォーメーションイニシアティブ(DX Initiative)「~デジタルトランスフォーメーションが実現するビジネス革新とソーシャルインパクト~」を開催。本会では、米ベライゾン・エンタープライズソリューション部門プレジデントのジョージ・フィッシャー氏によるゲストプレゼンテーションと、総務省谷脇康彦情報通信国際戦略局長、東京大学大学院情報理工学系研究科江崎浩教授、株式会社オランファウンダー代表で、CIO賢人倶楽部の木内里美会長、国立研究開発法人情報通信研究機構富田二三彦理事らが出席したパネルディスカッションが行われ、デジタルトランスフォーメーションが起こすビジネス革新についての熱い議論が行われた。

エンタメソリューション市場の5つのトレンド傾向

米ベライゾン・エンタープライズソリューション部門プレジデントのジョージ・フィッシャー氏によるゲストプレゼンテーションでは、「A Journey in Transformation」をテーマに、ベライゾン社のエンタープライズ・ソリューション部門の取り組みとマーケットトレンドについての説明がされた。

ベライゾン社は現在、「ネットワーク仮想化」「高度データ通信システム」「マネージドサービス」を成長分野に掲げる。フィッシャー氏は、「エンタープライズ・ソリューション部門は大きく成長しています。ネットワークの世界は目まぐるしく変化し、人的資源とグローバルネットワークの重要性を注視しています。我々は差別化のためのデジタルソリューションの提供を目指しています。」と説明した。

ジョージ・フィッシャー氏によるプレゼンテーション
動画再生時間:24分02秒

続けて、エンタープライズ・ソリューション市場のトレンド傾向について、「ITサービスは消費ベースモデルへと移行。リソース不足により、コア事業とそれ以外の事業とのせめぎあいが加速」「常に接続している状態が生活および業務の基本に」「企業のサプライチェーンはグローバルかつ相互に接続されている」「数百万のユーザーから、数十億の接続デバイスへと拡大」「電子商取引の大幅な増加により、セキュリティに対する脅威が増大」という5つの傾向について説明。さらに、「2019年までに、全世界でIPネットワークに接続されるデバイス数は人口の3倍以上へ」「2018年までに、アジア太平洋地域のビジネスIPトラヒックは世界最大となる最大9.5エクサバイト/月に」「2019年までに、アジア太平洋地域におけるIPトラヒックは54.4エクサバイト/月に到達」という数値を加えて、より具体的な見通しを示した。

ITサービスは消費ベースモデルへと移行

こうした状況下で、「先進的技術によりもたらされる想定外の脅威がビジネスを破壊するかもしれない。これら脅威をどのように予測すればよいでしょうか」という問いを投げかけた。予測する考え方としてフィッシャー氏は、「ライフサイクルとテクノロジーのS字曲線内での位置により、事業のプロダクトやサービスがどれだけ創造的破壊がされやすい状態を明確にすること」を提案した。

通信事業者としてのベライゾンは現在、ミレニアル世代に訴求するコンテンツを提供するデジタル動画サービス事業等を展開し、コネクティビティ分野には数10億ドルを投資している。「今、大事なことはオープンコミュニケーション。それを確実に伝えることができれば、ワクワクしてもらえます。ベライゾンは自信を持ってソリューションをご提供します」とフィッシャー氏は話し、プレゼンテーションを締めくくった。

日本政府全体の施策と連携する「IoT総合戦略」

続いて行われたディスカッションではフィッシャー氏と並んで、総務省谷脇康彦情報通信国際戦略局長、江崎浩東京大学大学院情報理工学系研究科教授、オラン木内里美ファウンダー代表が登壇し、「データをどのように社会の課題解決に活用するのか」をテーマに議論が繰り広げられた。

先のフィッシャー氏のプレゼンテーションを受けて、谷脇氏は「ビッグデータはいろいろなカテゴリーのものがありますが、ポイントは大きく5つに分かれます。オープンデータと、暗黙値をいかに恒常化していくこと、ストリーミングデータを使った効率化、パーソナルデータ、それからOTとITの一体化です」と意見をまとめた。また江崎氏は「デジタルファーストでシステムを作っているため、早いスピードでデジタルイノベーションが起こっています。グローバルにデジタルインフォーメンションを流通させる基盤がないとグローバルインフォメーションは生まれないと私は考えます。セキュリティの問題は諸刃の剣。トランスペアレントなネットワークが重要です。デジタル時代の新しいリテラシーも必要になってきます」と指摘した。木内氏は「iPhoneが誕生して今年は10年目に入りました。いまや誰もが常時インターネットに繋がっている状態です。ビジネスも変革しないわけがないですよね」と市場の状況を説明した。

DX INITIATIVE パネルディスカッションーVOL.1
動画再生時間:38分29秒

谷脇氏は今年1月に総務省が策定し、政府全体の施策と連携する「IoT 総合戦略」の考え方についても説明。これの基本的な考え方は「第四次産業革命の実現による30兆円の付加価値の創出があらゆる社会経済活動を再設計し、社会の抱える課題解決を図るSociety5.0を目指す」というもの。それは「データ主導社会」を目指すもので、IoT がオープンデータやストリーミングデータ、パーソナルデータを上げ、蓄積されるとサバー空間でビッグデータが動的・静的なデータを生成・収集・流通するというもの。さらに、それを解析するためにAI が使われ、その結果、課題解決のためのソリューションを実現し、現実世界へフィードバック、つまり社会的課題の解決に繋がる循環をデータ主導社会は生み出すと説明した。

谷脇氏は「IoT、ビッグデータ、AIの3つがセットとなって、単体ではなく、相互に連携していると思います。IoTのシステムは複数のシステムが相互につながるイメージです。リスクが顕在化されると、他のシステムに波及するため、リスクも内向しています。これをいかに断ち切り、ビジネスに活かしていく上で必要なデータを流通する仕組みを制度として築くことも必要です。データセントリックなスマートシティといろいろなデータを扱うことができるモジュール型のプラットフォーム作り、都市のデータを吸い上げながら、都市課題を解決するためのソリューションをプラットフォーム経由で提供できる基盤も作りたいと思っています。提供するのは大企業に限られるものではありません。ベンチャーが新しいアプリケーションを作り、都市課題の解決に繋げていくことも十分あるはずです」と述べ、今年1月に総務省が発表した「IoT総合戦略」を策定する作業が現在進められていることを説明した。

IoT、ビッグデータ、AIの3つがセットとなって、単体ではなく、相互に連携している

中小企業のセキュリティがクラウドにシステム移行することでより共通な守りが構築

これに対して、木内氏は「中小企業のセキュリティがクラウドにシステム移行することでより共通な守りが構築されます。そんな視点があってもいいですね」と同調。

さらに江崎氏は「IoTデバイスはプッシュ型からプル型へと変化し、大量のデータ処理が必要になります。ユーザー主導対ベンダー・プロバイダ手動の構造で、Industry4.0の伝えられていない方向性はサプライチェーンでなく、デマンドチェーンということです」と意見を述べ、さらに「垂直統合型モデルはビックデータ解析、AI実現には障害があります。これに相反するのは連携・協調プラットフォームの水平統合型モデルですが、互いに既得権益があります。ナショナルセキュリティが強くなっている状況のなか、国ごとにネットワークがばらけることが大きなリスク回避につながるとしています。

中小企業のセキュリティがクラウドにシステム移行することでより共通な守りが構築

セキュリティの話で重要なのはゼロリスクではなく、ある程度の余裕を持ちながら安心する思想で作らないといけません。イノベーションの障害がセキュリティになることをどのように構築すべきか、これが重要です。セキュリティはビジネスですから、クオリティを上げるためにセキュリティをどうするかを考えなければいけません」と問題意識を提議した。

IoT人材は不足、人材育成の必要性

ビジネスを支えるICT基盤の在り方についても議論が展開された。なかでも登壇者の全員が意見を一致をみたのは、IoT人材育成の必要性。谷脇氏は「IoTを進めていく上で直面しているのは人材不足です」と話し、今現在、日本では103万人がIoT人材として活躍していますが、アメリカと同程度の人材を育てるためには実はさらに100万人のIoTヒューマンリソースが必要だと試算されていることを明かした。補うためにIoT関連機器等に対して、一定の専門知識を持つ人材の増加と、IoTを支えるネットワークの運用管理を担う人材の訓練・育成、プログラミング教育等の量的拡大が必要だという。谷脇氏は、「IT企業に人材が偏っており、流通や製造業では人材が極めて少ない。セキュリティの素養を身に着けながら、いろいろな分野でIoT人材をIT企業から非IT企業に異動させることが大事」だと指摘した。

DX INITIATIVE パネルディスカッションーVOL.2
動画再生時間:45分10秒

最後に今後を見据えたの方向性の提言が各登壇者からなされた。谷脇氏は「IoTが社会インフラになり、オープン性を確保しながら、モジュール化し、共通化できるところは共通の議論としていきたいと考えています。柔軟な多様性を担保するためにクラウドの活用があり、データを連携させるプラットフォームと、APIのエコノミーシステムをいかに作っていくことが議論の中心になっていきます」と述べた。また木内氏は「マイルドチェンジを前提に、デジタルイノベーションは民間企業から引っ張っていくべきでしょう」と提言。一方、江崎氏は「IoTはセキュリティを無視しています。これがIoTの最大のリスクだと私は考えます。通信キャリアがセキュリティを担ってきましたが、人材育成問題を含めてこれからはどのようにIoTバブル企業に移行していくことがミッションになるかと思います」と意見を述べた。

デジタルトランスフォーメーションによるビジネス現場の変革の議論が今後ますます活性化されていくことを期待したい。