
AI技術が急発展しながら社会に浸透しつつある。今日、AIの利活用が与える影響はむしろ高技能(スキル)職のほうで強いことが明らかになってきた。ITやロボティクスで垣根の低いタスクが置き換えられ、それらの職業の賃金が下がり、職種間の賃金格差が拡大――という図式は過去のものだ。
これまで、AIの普及は職種間の賃金格差を縮小させることを明らかにしてきた。が、同じ職業に就く労働者の中でも技能差とそれに伴う賃金差が存在する。AIの導入が労働市場全体の賃金格差に与える影響の全貌を詳らかにするには、同一職内での技能の高低による影響度合いを明白にすべきだが、従来、各人のAI利用について粒度の高いデータが入手不能だったこともあり、待望されどそのような研究は行われてこなかったという。
東京大学GrasPP教授らの研究チームは、AIが生産性に与える影響について、労働スキルでどう異なるかをタクシー乗務員の詳細・ミクロな乗務データを用いて実証した。分析の結果、需要予測AIの活用は、高スキル乗務員の生産性向上に有意な影響が見られない一方で、低スキル乗務員の生産性を7%ほど改善し、高スキル乗務員と低スキル乗務員の生産性の差を13.4%ほど縮めたことを発見した。
同チームはMoT(現社名:GO)に提供された各匿名ドライバーの空車走行履歴データを分析。結果、「お客様探索ナビ」をオンにすると空車時間が平均約5%短くなることが明らかになった。さらに同ナビ導入以前の空車履歴情報を用いて各乗務員の技能レベルを定義し、技能ごとに同ナビ効果を分析した結果、空車時間の削減は低技能の乗務員でより大きく(約7%)、高技能の乗務員への影響は限定的であった。
AIの導入は技能による賃金格差を減少させる可能性がある。これはAIが今後の経済に与える影響を考える上で重要な発見だという。研究成果はManagement Scienceで公開された。