様々な物理系の状態変化を計算過程として利用する物理NNは、デジタル信号に依存しないニューロモルフィックデバイスの一種に分類され、爆増する深層NNの演算に効率的に対処できる次世代の計算媒体として期待されている。特に光の伝搬・干渉による光演算を利用した光NNは、低消費電力かつ大幅な高速動作が可能だとして注目されている。
深層NNの学習では誤差逆伝搬法(BP法)と呼ばれるアルゴリズムが用いられる。光NNなど物理NNに同法を適用するには、物理系上に構成された深層NNの全情報の把握等が必須でより複雑な学習計算が要求される。よって物理系上での実現は困難とされ、デジタル計算機を介して学習計算が実行――、学習計算の大部分をデジタル演算に依存する形となり、物理NNの拡張性と有効性が大幅に制限されていた。
制約の多さから、生物の脳の学習メカニズムとしてもBP法の妥当性は懐疑視され、より一般的に物理NN上で実行可能な学習アルゴリズムの開発が多くの研究者の関心の的になっていたという。NTTと東京大学大学院情報理工学系研究科(國吉・中嶋研究室、AIセンター)の研究グループは、脳の情報処理から得た着想を基に、深層NNならびに物理NNに適した新たな学習アルゴリズム「拡張DFA法」を考案し、その有効性を確認した。
それを光NNに適用し、学習過程を含めて物理NN上で効率的に計算可能であることを世界初実証。物理NNとしても世界最高性能を実現した。AI向けコンピューティングの電力消費や演算時間の大幅な低減につながるものと期待される。成果は「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載された。