葉の気孔を認識・計測するAI顕微鏡にて、育種学的成果へ

葉っぱには小さな穴がある。特殊な細胞の隙間であるそれ、すなわち「気孔」を通して、植物は呼吸をし、水分のインプット量とアウトプット量を調節する。光合成に必要なCO2や酸素のガス交換が起こる。気孔の数が多く大きいほど、光合成効率は高くなりやすい――

一方、同時に水分が失われて乾燥し枯れやすくなる。そのため、その植物が育つ環境に応じて最適な気孔の数と大きさは異なると考えられる。世界的に気候変動が進むなか、これから各地で作物品種を育成していくには、各環境に適応できる様々な形質を付与する必要がある。その一つとして、気孔の数や大きさは、重要な形質だといえる。

気孔の数や大きさの異なる品種を育成したり、気孔の数や大きさを決める遺伝子を見つけて利用したりするには、多様な品種の葉を顕微鏡で観察して気孔の数や大きさのデータを多数収集することが求められる。しかし、茎・葉・穂の大きさ等の比較的容易に計測できる形質に比べ、気孔は顕微鏡観察を行わなければ測れない形質であるため、データ収集の労力が大きく、時間がかかるという。

横浜市立大学 木原生物学研究所の研究グループ、および名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の研究グループは、顕微鏡画像から気孔を認識するAI技術と、それを動かすための小型コンピューターを利用して、リアルタイムに画像解析する安価な新しい顕微鏡システムを開発した。同システムは、画像品質を確認しながらデータ収集と解析を行うことができる。

新システムにより、実際にコムギの気孔を認識・計測したところ、精度の高い結果を得ることができた。今後はこの技術を利用してコムギなど作物種の気孔の数や大きさを決める遺伝子の同定など、育種学的な成果につなげていくことを目指す。両研究グループの成果は、「Frontiers in Plant Science」誌に掲載された。