電子カルテのデータ伝送を量子暗号で秘匿、秘密分散してバックアップ

台風や地震などと無縁でいられない。日本では近年、大自然の猛威による甚大な被害の発生件数が増えている。医療機関においては、それらの自然災害に備えて、患者の電子カルテデータを遠隔地に秘匿して保管すること、そしてそれらをいつでも復元して取り出せることが求められている。

より質の高い医療サービスの提供や医療従事者の業務効率化を実現するためにも、医療機関間での電子カルテや医用画像など医療情報の共有が進められている――が、医療情報に含まれるデータは機微性が極めて高い、個人情報であるため、医療機関間で安全にデータを共有する仕組みが必須になっているという。

NEC情報通信研究機構(NICT)ZenmuTechは、医療分野への量子暗号の適用に向け、NECの電子カルテシステムユーザである東京都内の医療機関の協力のもと、SS-MIX標準化ストレージに対応した電子カルテのサンプルデータについて、量子暗号で伝送そのものを秘匿し、広域ネットワーク経由で秘密分散技術を用いてバックアップを行う仕組みの実証実験に成功した。

秘密分散ネットワークへの秘匿通信は、NECの回線暗号装置を活用し、Tokyo QKD Networkの量子鍵配送装置からリアルタイムに供給される暗号鍵を現代暗号AESと組み合わせ――これにより、量子コンピュータでも解読が困難で、安全性の高い秘匿通信を実現している。今回の仕組みを活用して、高知医療センターとの電子カルテサンプルデータの相互参照も達成した。

内閣府主導のSIP「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術」(管理:量子科学技術研究開発機構)の一環として上記実証を実施した。3者は、高精細映像や5Gといった先進技術を組み合わせることで、インターネット経由での遠隔バックアップや地域医療連携に資する遠隔診療・遠隔手術などにも量子暗号を適用する、さらなる研究に取り組んでいく構えだ。