新たなAI予測理論をさまざまな複雑系に適用、変化を予測する

現代社会の重要な問題は広義の複雑系として理解できる(『暮らしを変える驚きの数理工学』、ウエッジ選書53)。複雑系の将来の変化を予測することは、各種疾病の早期診断、感染症の流行予測、電力網のブラックアウトや交通渋滞の発生防止、経済対策などに極めて重要である。

近年、センサーやIoT(モノのインターネット)、エッジコンピューティングなどの情報通信技術の進歩により、複雑系から非常にたくさんのビッグデータが同時計測できるようになってきている――が、これらの高次元ビッグデータを用いて、複雑系の将来動向を効率よく予測する技術は、高次元性の数理的取り扱いの難しさ("次元の呪い")もあって、十分に開発されていなかったという。

東京大学の合原一幸特別教授・名誉教授は、中国科学院の陳洛南教授らと共同で、複雑系に適用可能な新しいAI予測技術「オートリザバー計算」手法を提案。微分幾何学および力学系理論の埋め込み定理に基づいて、高次元の同時計測ビッグデータの空間情報をターゲット変数の将来の状態変化時系列へと変換する、時空間情報変換式を定式化し、これをAIとして実装する具体的手法を構築した。

対象複雑系を"Reservoir"として利用する、同手法は、複雑系から観測される多変数ビッグデータの空間情報を特定のターゲット変数の予測に活用するための数学理論に基づいていて、風速、日射量、海面気圧、気温、台風進路、遺伝子発現量、株価指数、循環器系疾患の入院患者数、交通量といった多数の複雑系の予測に有効であることが、実際の観測ビッグデータを用いて検証された。

他の様々な従来予測手法よりも高い精度で予測できることを実証した。教授らは今後、「オートリザバー計算」を実社会の多様な分野で利用するためのソフトウェア開発と実装に注力する予定だという。共同研究の成果は11日、「Nature Communications」で発表された。