「文化財のデジタルアーカイブに専門家らの見解を集約・蓄積する」

京都の市中とその周辺を描く、洛中洛外図の1つで、もと滋賀の舟木家に伝来したため、舟木本の名で親しまれている。元和初年(1615)頃の作とされるその屏風は、上京と下京をそれぞれ東と西から眺望して2図に描き分ける形式を破っている。

右端に豊臣氏の象徴である方広寺大仏殿、左端には徳川氏の二条城を置いて対峙させ、その間に洛中、洛東の町並が広がる。1視点からとらえた景観を左右の隻に連続的に展開したものであり、清水寺などの名所や小袖屋等の店、歌舞伎や浄瑠璃を上演する歓楽街の盛況ぶり、祇園会の神輿と風流の進行する様、立烏帽子の貴族、馬上の侍、南蛮人、路傍の遊女と客ら、およそ2500に及ぶ人々が精緻に描かれている。

屏風絵などの文化財に描かれた内容に関する地理、歴史、工芸、観光など、複数の専門家の見解をデジタルアーカイブ上に集約し、その情報を学術研究や文化財鑑賞に役立てることを目的に、凸版印刷は、京都大学と昨年から次世代文化情報プラットフォーム構想の共同研究を推進している。その成果として、「オンライン・フィールドワーク・システム(ETOKI)」のプロトタイプを開発したことを8月末に発表した。

同社が持つデジタルアーカイブデータ上に京都大学総合博物館が名所・建築物・人物に関する描画情報や関連資料など、客観的情報の紐付け作業を実施し、文化情報を蓄積する。ETOKIは屏風絵などの絵画資料に描かれた町の中を、様々な分野・立場の人々が共にフィールドワーク(絵解き)を行い、デジタルアーカイブに文化情報を蓄積する為のシステムだという。

今回、京都の社寺や伝統工芸などの有識者や関係者と絵解きし、個人の解釈や見解など、多彩な情報の埋込みを行った。同システムを用いて国宝「洛中洛外図屛風(舟木本)」をテーマに制作されたコンテンツが、「ICOM KYOTO2019」のミュージアム・フェアにて9月2日~4日に公開される。