医療機関で行われる超音波検査、いわゆる「エコー検査」では、超音波ビームが骨などの構造物に反射し、それより遠い画像情報を取得できないために、その箇所が「影」として映ることがよくある。
それは「音響陰影」と呼ばれ、画像の質を劣化させるだけでなく、検査そのものの精度を著しく低下させる最大の原因だという。理研AIPのがん探索医療研究チーム、理研AIP-富士通連携センター、昭和大学医学部産婦人科学講座、NCC研究所がん分子修飾制御学分野の共同研究グループは、超音波検査に人工知能(AI)技術を適用するうえでの大きな課題「影」について、効率的な検出技術を新開発した。
昨年9月に「AIを用いた胎児心臓超音波スクリーニング」を発表し、超音波検査画像に特有の課題を克服するために、少量・不完全なデータからでも的確な予測が可能な機械学習技術を研究してきた。今後臨床応用を進めていくには、一層多様な検査画像を処理する必要があり、重要な臓器を隠してしまう影など、診断支援AIが解析すれば誤った結果を導くことのある不適切なデータに対して、再取得を促す機能の開発が求められていたという。
グループは今回、影の性質の詳細モデル化が不要で、影あり・影なし境界の統一基準化や薄い影に対応できないといった弱点を克服した深層学習(ディープラーニング)によるラベルなしデータでの学習により、音響陰影を自動検出する技術を開発。従来手法よりも高精度に影を検出できることを確認した。新手法は、技術実装の労力が大幅に削減されるメリットもある。
超音波画像に映り込んだ影が異常検知に与える影響を自動的に評価できるようになり、胎児心臓超音波スクリーニング技術の臨床応用に向けた研究がさらに前進した。今回の研究は文部科学省「次世代人工知能技術等研究開発拠点形成事業費補助金」を受けて行われたものであり、成果は、国際学会「MIDL 2019」にて発表された。