ひとつは一番外側にある死んだ細胞からなる角質層。もう一つは、そのすぐ内側で死ぬ直前の角化細胞がつくる「タイトジャンクション(TJ)」。常に再生を繰り返している表皮の一番内側、基底層にある角化細胞の幹細胞が分裂し、徐々に外側へ移動しながら皮膚バリア形成の準備をする。有棘層を過ぎて顆粒層に達すると、角化細胞は平べったい多面体状の形になり、横隣の角化細胞間でジッパーのようにTJバリア構造を形成する。
顆粒層の細胞は同時に、天然保湿成分などが詰まった細胞内顆粒の放出と細胞死の準備、つまり角質形成の準備をする。皮膚バリア機能はさまざまな原因で減弱する。遺伝的要因や環境の影響による天然保湿成分の減少もその代表的な一つである。皮膚バリアの減弱が続くと、異常な痒みが誘導され、乾燥皮膚では同バリアが減弱して痒みを引き起こす。それに引っ掻きも加わり――
さらに皮膚バリアが減弱すれば多様な外来物の侵入が継続的に起こる。それがアトピー性皮膚炎の原因だと考えられている。角質層のバリア機能に対して、TJについても、その減弱がアトピー性皮膚炎発症に寄与すると提唱されていたが、TJバリア減弱から発症に至る機序は不分明であった。アトピー性皮膚炎などで、皮膚バリアの減弱が感覚神経を活性化し、痒みの誘導に至るメカニズムもよく分かっていなかったという。
理研IMSの組織動態研究チームと皮膚恒常性研究チームの共同研究グループは、皮膚の感覚神経が「皮膚バリア」によって恒常的に保護される仕組みを解明。ヒトの正常皮膚の表皮内では、TJバリア構造の内側に神経線維が常に保持されていることを明らかにした。しくみについて、マウス表皮神経の生体イメージング解析を行い、その終末はダイナミックに伸縮しつつ、時折新しく形成されたTJのところで"剪定"されることを初めて見出した。
一方、アトピー性皮膚炎のマウスモデルではその剪定がうまく起こっておらず、神経がTJに貫入して外側へ突出――。剪定異常の部分を起点として、感覚神経の異常な活性化が起こることが分かった。さらに、TRPA1と呼ばれるイオンチャネルを阻害することにより、この感覚神経の異常な活性化と、痒みの両方が抑制されることを発見した。
皮膚バリアの減弱により引き起こされる痒みのメカニズムの解明に寄与し、アトピー性皮膚炎などの痒みを抑制する新たな治療法の開発に貢献すると期待される。今回の研究は、AMED免疫アレルギー疾患実用化研究事業、JSTイノベーションハブ構築支援事業による支援を受けていて、成果は英国科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に掲載された。