X線画像検出器、世界最高の解像能で電子デバイスの非破壊検査などへ

ものを壊さずその内部を透視して、キズ等を検出する。非破壊検査には様々な種類があり、放射線や超音波などを用いて、対象物により最適な試験・計測を行うことになる。人の肺や骨の状態をレントゲン写真で診るのと同様のイメージである。

工業製品などを検査するシステムでは、計測試料にX線を照射した際、透過X線・回折X線・蛍光X線の形で信号が得られる。この信号の検出器は実験にて必要不可欠な要素だ。特に、広範囲のX線信号を画像として取得し、その空間分布情報を得られるイメージング検出器は、その高い汎用性から数多の実験や装置で採用されていて、取得データの精度を左右する解像力の向上が、国内外で重要な研究テーマとなっている。

X線CTなどのイメージング検出器は、X線をシンチレーター(発光物質)で可視光に変換し、レンズで拡大して撮像する時にピントずれ成分を除去することで解像力を高められる。シンチレーターを支持基板に接合して10µm厚まで研磨することで、100万分の1メートル超の高精度画像が得られる。が、X線で接合層の光学特性が劣化、可視光イメージが滲む。従来手法ではほぼ理論限界の性能を達成できなかったという。

高輝度光科学研究センター(JASRI)理研 放射光科学研究センター(RSC)神島化学工業の共同研究グループは、理論限界に近い200nm( nm:10億分の1メートル)の構造を解像できる――世界最高の性能を有し、かつてない精細なX線画像が得られる高解像度X線イメージング検出器の開発に成功した。同検出器は、各種アプリケーションにおいて計測精度・測定限界値の向上に広く貢献するだろうという。

研究グループは、X線が可視光へ変換された後の結像過程に注目。接合層の無い透明な5µm厚の薄膜シンチレーターを新開発し、光学特性を飛躍的に向上させた。200nmの解像力を用いて、超大規模集積回路(VLSI)デバイス内部の300nm幅配線の撮像にも成功した。内部微細配線を非破壊かつ実用レベルの画質で可視化したのは世界初とのこと。

JSPS科研費 若手研究(B)の助成を受け、SPring-8/SACLAの利用研究課題として行われた。今回の研究成果は、放射光を用いたX線CTで、その高い解像力を活かし、より微細な構造を計測することが可能になる。同検出器により簡単に解像度の高い透視像が得られることを示していて、大型放射光施設SPring-8だけでなく、小型X線源を用いた電子デバイスの非破壊検査などでの実用化が期待される。

産業用のX線撮像装置へ適用すれば、小型X線発生装置・計測試料・X線イメージング検出器を密着して配置する、単純な構成で、容易に微細構造を持つ試料の高解像度X線画像が得られるという。同研究グループの成果は、米国科学雑誌『Optics Letters』に掲載され、同誌のEditor's pickに選出された。