時間の錯覚、視覚と聴覚で異なる時間判断の仕組みの一端を解明

ヒトは、目から受け取った視覚情報を、脳内で段階的に処理することによって「何が見えているか」を認識できる。しかし、処理時間の異なる様々な視覚情報が、どのような仕組みで統合されているかは解明されていない。

視覚情報と聴覚情報は、脳内の異なる経路を通って別々に処理されるが、こうした異なる感覚情報がどのように統合され、主観的な現在を形成しているのかも分かっていない。これらの仕組みを解明するためには、人間の主観的な時間判断を心理実験によって計測する必要がある。

そうした中、産業技術総合研究所(産総研)人間情報研究部門ニューロリハビリテーション研究グループ 林 隆介 主任研究員は、東京大学大学院人文社会系研究科 村上 郁也 教授とともに、脳内の処理経路や処理時間が異なる感覚情報が、どのように統合されて、「我々が感じる現在」=主観的な現在が構築されるのか、その仕組みの一端を明らかにした。

錯覚には様々な種類がある。フラッシュラグ効果も錯覚の一つで、ある出来事と同時に見えたと"思った"映像が、実際には異なる時刻の映像である錯覚として知られる。今回、この錯覚をヒントに、心理学的逆相関法という手法を用いて、どの時刻の映像が、ある出来事(突然のフラッシュ光やクリック音の出現)と同時だと判断されるのかを計測した。その結果、フラッシュ光と同時に見えたと思った映像の実際の時刻と、フラッシュ光の時刻とのずれは、その映像を脳が処理する時間に依存して、映像の種類ごとに異なることが分かった。一方、視覚と聴覚の情報は直接統合できないため、クリック音と同時だと判断されるのは、映像の種類によらず、音に気付いた時刻(=音の実際の時刻より後)の映像を同時と判断することが明らかとなった。

実験によって得たこれらの発見により、身近な錯覚の背後にある、人間が時間を判断する仕組みの一端が明らかになった。この研究成果は、ヒューマンエラーによる事故やトラブルの防止への貢献が期待されるという。