新たな振動発電原理を実証、IoT端末にグリーンなエネルギーを
特にエレクトレット(半永久的な電荷を持つ誘電体)型MEMS振動発電素子は、他方式より低周波数かつ出力電力密度大のため、環境振動利用に適している。が従来その原理上、MEMS構造内にエレクトレット層を組み込むため両者の構造・材料を自由に選択できず、各要素の最適設計が困難。素子製造の最終工程で高電圧印加を行うため、プルイン現象(静電引力)等による故障の防止で非常に強固な機械構造を要した。
さらに、空気中にイオンを発生させてエレクトレットを帯電させる際には、電極表面に遮蔽物がない設計も求められ、MEMS構造の限界設計(機械性能を最大限に引き出す)には多くの制約があったし、発電素子作製後に素子間のエレクトレット帯電量を補正する技術もなかったという。東京工業大学 未来産業技術研究所と、東京大学 先端科学技術研究センターの共同研究チームは、MEMS可変容量素子とエレクトレット層を物理的に切り離した新原理の振動発電素子の開発に成功した。
MEMS可変容量素子は外部振動による慣性力で可動電極が動く構造となっている。その結果、振動に応じてMEMS部の静電容量とエレクトレット層下部の静電容量のバランスが変化――これにより、各静電容量に蓄積される電荷量が変化して、誘導電荷が生じ、同誘導電荷を外部負荷で取り出すことで、発電が可能となる。原理を利用すれば開発の自由度がアップ、任意のMEMS構造に任意のエレクトレット材料を組み合わせられる。
原理検証実験では、シリコンMEMS可変容量素子と、エレクトレット(AGC社サイトップ™)を成膜したシリコン基板を用意して、それらを電気配線で接続した。シリコンMEMS可変容量素子のみの振動では誘導電荷を生じないが、エレクトレット成膜基板に接続した場合は誘導電荷による発電を確認できたという。
今回の成果は、JSTの「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」(CREST・さきがけ複合領域)における課題「多層エレクトレット集積型CMOS-MEMS振動発電素子の創製」および「エレクトレットMEMS振動・トライボ発電」研究により得られたものであり、個別に作製したMEMSとエレクトレットを電気配線で接続するだけで発電可能な新しい振動発電原理を実証した。
従来のエレクトレット振動発電における制約条件を打破したうえ、無線IoTセンサなどへ向けたエネルギーハーベスティング(環境発電)技術の性能向上につながると期待される。研究成果は1月28日、ソウルでの国際会議「MEMS2019」にて発表される。