量子コンピュータ、さらなる高温での動作に道筋がつく

電灯のオンとオフのごときデジタル信号で動作する。最小単位ビット(1か0か)を8個連ねあわせたバイトを基本に、さまざまな演算や表現を行うコンピュータは現在主流だが、性能向上の限界を迎えつつある。ゆえに今、0でもあり1でもある量子ビットによって動作するしくみが盛んに研究されている。

0と1の量子力学的重ね合わせ状態を取れる量子ビット、そのなかでも半導体中の電子スピンを用いた「シリコン量子ビット」は、既存のシリコン技術でも作製可能であり、従来型シリコン集積回路との接続性の良さなどから注目を集めている。が課題もある。

従来のそれは超伝導量子ビットと同様、動作に0.1K(約-273℃)以下の極低温環境を要する。そのための冷却装置は高価(1台あたり1億円程度)で、かつ10平米ほどの設置スペースが必要であり、装置への試料の導入や取り出しにはその都度数時間もかかるという。

理研石橋極微デバイス工学研究室の専任研究員、産総研ナノCMOS集積グループ主任研究員らの共同研究グループは、シリコン量子ビットを10K(約-263℃)の高温で動作させることに成功。シリコン中の「深い不純物(アルミ-窒素不純物ペア)」の電子スピンを用いることで、従来よりも100倍以上高い温度(10K)での量子ビット動作を実現した、と今月24日公表した。

トンネル電界効果トランジスタ構造に深い不純物を導入し、深い不純物の電子をトランジスタ電極に取り出し「スピン閉鎖現象」を利用することで、量子ビットの状態をトランジスタの電気特性として読み出した。今回の高温動作シリコン量子ビットは、センサーなどの量子ビット単体の応用に向いていて、量子コンピュータの構築に要するビット間結合技術や、より信頼性の高い制御技術の実現はこれからの課題だという。

共同研究グループの成果は、英国の科学雑誌『Scientific Reports』電子版に掲載された。