AIにて地震動と低周波微動を高精度かつ自動判別する

近年、地震・地殻活動観測網と観測データ解析技術が発達。これにより、プレート境界地震の震源域周辺において、低周波微動や超低周波地震、スロースリップなど、通常の地震動よりもゆっくりとした震え(スロー地震)の起こっていることが明らかになってきた。


スロー地震の発生メカニズムを解明し、発生状況をモニタリングすることで、巨大地震の発生メカニズムと準備過程について理解が深まると期待されている。なかでも低周波微動は、地震計によって低周波成分が卓越し、数十秒以上継続するシグナルとして観測される。その始まりはゆっくりであり、通常手法での検知は困難なため、シグナルが複数観測点で共に強くなるタイミングを調べることで、低周波微動の検知を行ってきた。

が、そのような手法では通常の地震動も同時に検出してしまうため、あらかじめ検出した地震のリストを用いたり、目視チェックしたりして、低周波微動イベントだけを抽出する必要があった。一方、地震動シグナルの周波数成分と継続時間を同時に示すランニングスペクトル画像によってそれを判別する手法では、震源と観測点の距離や位置関係で波形が変化。ランダムな断層すべりに起因する低周波微動は画一的な基準で判別し難いという。

JAMSTEC地震津波海域観測研究開発センターおよび地球情報基盤センターの研究員らは、ランニングスペクトルを用いて低周波微動と通常の地震動のシグナルを自動的に高精度で判別する、人工知能(AI)技術ベースの新手法「SRSpec-CNN」を開発した。研究では、両波動シグナルの周波数成分と継続時間の違いに着目。ランニングスペクトル画像を地震動波形から作成し、震源の物理的性質を表す周波数成分の違いを適切に認識する手法を開発することで、シグナルを自動判別するとともにその精度を向上することにも成功した。

SRSpec-CNNを用いて、南海トラフ付近に展開されている地震・津波観測監視システム「DONET」の地震計で記録された低周波微動と通常の地震動のシグナルの判別を行った結果、99.5%の正解率を達成した。従来、AIによる地震動シグナル判別の研究では、多くが波形データを直接利用していた。それに対して、判別にランニングスペクトルを用いたのは今回の研究が初めてであり、新たに開発したオリジナル手法によってシグナルの周波数成分の違いを認識し、判別の高精度化を実現した。

スロー地震の発生はプレート境界における巨大地震発生に向けた歪の蓄積過程と深い関係があると考えられている。そのため、この度の新手法によって低周波微動を自動でモニタリングすることにより、プレート境界すべりの多様性と時間変化、そして巨大地震の発生メカニズムと準備過程についての理解がさらに深まるだろう。成果は米国地震学会発行の科学誌「Seismological Research Letters」電子版に掲載された。