全遺伝子の働きの季節変化を自然条件下で捉える、京都大学が実施

京都大学は、植物の葉で機能している全遺伝子を対象に、毎週2年間にわたって遺伝子の働きを測定した。測定は、日本に自生する植物であるアブラナ科のハクサンハタザオについて、兵庫県多可郡多可町中区牧野および門前にある同植物の自然生育地において実施。


工藤洋 生態学研究センター教授、永野惇 同研究員(現・龍谷大学講師)、本庄三恵 同研究員らの研究グループが実施。研究成果は、2019年1月8日に国際学術誌『Nature Plants』のオンライン版に掲載された。

日本を含む温帯域において、環境のもっとも顕著な変化は季節として現れる。そのため、植物をはじめとするほとんど生物が、季節に応じた生活のスケジュールを持っている。植物が決まった時期に葉を開き、花を咲かせ、種子を実らせ、葉を落とすのがその例だ。

最近の研究手法の発達により、野外における遺伝子の働きを測定することが可能となった。それに伴い、遺伝子の機能を明らかにするうえでも、本来の生育地で研究をすることが重要となった。そこで、次世代シーケンサを用いることで、全ての遺伝子の働きについて、その季節変化を測定することを目的としたプロジェクトが始まった。

植物は移動しないので、自然条件下での継続観察が可能であるという利点がある。また、野生植物をその自然生育地において研究することが、本来の季節性を観測するという点で重要となる。研究では、日本に自生する植物であるアブラナ科の常緑多年生草本ハクサンハタザオについて、兵庫県多可郡多可町中区牧野、門前にある同植物の自然生育地を、毎週2年間にわたって調査し、葉を採集して、遺伝子の働きを調べた。

遺伝子が働くときに作られる分子である「メッセンジャーRNA」を取り出し、対応する遺伝子ごとにその量の変化を調べた。その結果、ハクサンハタザオの葉で働いていた1万7,205種類の遺伝子のうち、16.7%にあたる2,879の遺伝子が季節に応じてその働きの強さを変化させることが明らかになった。

また、春分・夏至・秋分・冬至での日内変化を調べ、7,185の遺伝子が一日のうちで働きの強さを変化させることも明らかにした。これまで主に実験室環境で研究されてきた遺伝子が、自然条件下で日内変化を示すもの、季節変化を示すもの、変化せずに働き続けるものに分類できた。グループによると、今回の研究において季節変化することが初めて明らかになった遺伝子も多数あったという。

自然条件下では、日長を基準とした春夏秋冬と、気温を基準とした春夏秋冬との間には1カ月半のずれがある。つまり、日が一番長い夏至は6月下旬、一番短い冬至は12月下旬であるのに対して、もっとも暑くなるのは8月上旬、もっとも寒くなるのは2月上旬だ。

研究グループでは、この差を操作した栽培実験を実施し、遺伝子の働きを調べ、自然生育地のデータと比較した。その結果、野外で観察される遺伝子発現の季節変化は主に温度の変化に応答していることが明らかになるとともに、植物の繁殖や成長にとって、日長と気温の1カ月半のずれが重要であることを示すことに成功した。全遺伝子の働きの同時測定という最新の分子生物学の手法と、自然生育地の毎週調査という地道な生態学の手法とを組み合わせることが新たな成果につながったと説明する。