EVモーターや発電機、実測決定されたナノ構造データで高性能化へ

我々が住む星の温暖化抑制、持続可能性のためにも様々なしくみが見直されている。現在、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーによる発電が各国で脚光を浴びている。


EV・発電機ともに、電磁気学などを利用したモーターが基幹要素である。そしてモーターは、主に金属および鉱物で構成されている――。物質材料・生体分子・鉱物中の結晶構造(原子の占有率と配置)や磁気構造 (電子磁石の配列)は、熱・圧力・電磁場・光・化学環境等に対する応答など、物質のあらゆる特性の起源に直結している。

昨今、それを高度インフォマティクスと組み合わせ、開発したい物質材料を速くかつ効果的に設計するための貴重なデータベースとして用いるべく、正確で高速な構造決定法の開発が急務となっている。結晶・磁気構造は、X線・中性子線回折実験でデータを測定し、そのデータに最も合致する候補として得られる。が、最小二乗法をはじめとする従来方法では、候補の相対的評価が可能であるものの、大域解(真に実験データと最も合致する構造)である保証ができないことが問題であったという。

東北大学と山形大学は、九州工業大学、米国オークリッジ研究所との共同研究で、回折実験から最確の磁気構造と原子占有率を決定できる全く新しい実験データ解析法を開発した。長年未解決だった局所解問題を、数理科学を用いて解決した。その方法をイリジウム酸化物磁性材料について実測した粉末中性子回折データに適用した結果、大域解であることが数学的に証明された磁気構造を実験的に決定することに成功した。

データベース中の数千個の結晶構造から数値シミュレーションにより生成した仮想回折データ群を用い、大域解であることが保証された原子占有率を決定できることも確かめた。磁気構造は全磁性材料の基礎情報、原子占有率は水素含有材料や電池材料などで特に重要となる原子欠損や不定比情報を提供するものであり、これまで互いの高度さゆえに乖離しがちであった数理科学と材料科学(実験)の融合が創出した今回の成果は、複雑な組成の材料に対しても正しくかつ高速に求解する手段を提供する。

JSTさきがけ 「社会的課題の解決に向けた数学と諸分野の協働」における研究課題「結晶学的位相問題の解を列挙する理論とソフトウェアの開発」、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤 (B)(S)(C)、東北大学学際科学フロンティア研究所 領域創成プログラム、東京大学物性研究所と米国エネルギー省の協力事業「中性子散乱」の支援を受けて行われた。研究による上記解析法は、基礎・応用・実用の様々な磁石・水素・電池材料の開発において問題解決や性能革新に貢献する。

将来、数学的に正しさが保証された磁気密度・原子占有率の空間分布を回折・散乱測定中に観測する技術への発展が期待されるという。成果は、国際科学論文誌Scientific Reportsに掲載された。