人工RNA論理回路で細胞の運命を制御する、京都大学

京都大学は、合成RNAを細胞に導入することで細胞の運命を精密に制御できる人工論理回路を開発したと発表した。miRNAを検知してタンパク質を作り出す人工回路を改良した。


松浦理史大学院生(京都大学CiRA未来生命科学開拓部門)、齊藤博英教授(京都大学CiRA同部門)らの研究グループが開発。研究成果は、2018年11月19日に英国科学誌『Nature Communications』でオンライン公開された。

合成生物学分野は、創薬やワクチン開発、細胞移植などといった医療への応用が期待され、急速に研究が進んでいる。その中でも、細胞内の遺伝子発現を制御する人工回路は、細胞の運命をコントロールできる技術として開発が進められている。これまで、このような人工回路はDNAを合成して作製されていたが、細胞内に導入すると、ランダムに細胞内のゲノムDNAを傷つけてしまうリスクがあり、医療応用が難しいという課題があった。

研究グループは、安全性の高い人工RNAを利用した人工回路の作製に取り組んできた。同グループは標的となる細胞の状態を、細胞内の特異的な1種類のマイクロRNA(miRNA)により識別し、その状態に応じて細胞運命を制御できる回路を構築し、2015年に発表している。

しかし、この人工回路ではmiRNA存在下と非存在下において出力として得られるタンパク質の発現量の差に課題があった。そこで、今回の研究ではより顕著な出力差が得られるよう人工回路を改良し、それを組み合わせることで複数のmiRNAを検知し、より特異的かつ精密に細胞の運命を制御できる人工論理回路の構築を試みた。

今回開発した人工論理回路では、細胞内の複数種のmiRNAを検知して入力信号とし、それぞれの論理回路(AND、OR、NAND、NOR、XOR回路)に応じ、出力として任意のタンパク質の発現を制御することに成功した。これにより、特異的に狙った細胞の機能を精密に制御することが可能となり、将来的には標的細胞の純化に用いるなど、医療応用に貢献できると期待される。