理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター環境代謝分析研究チームの菊地淳チームリーダー、伊藤研悟特別研究員らの研究チームは、機械学習アルゴリズムの探索により、核磁気共鳴(NMR)化学シフトの予測を世界最高精度で達成したと発表した。
菊地淳チームリーダーらはこれまで、機械学習やベクトル自己回帰モデリングを駆使した赤潮発生時の重要因子可視化や、深層学習を駆使した天然魚の地域判別に関わる重要因子抽出法を開発してきた。
核磁気共鳴(NMR)法は、携帯電話に近い周波数帯のラジオ波を利用する分光法で、計測する化合物の分子構造に応じて固有の化学シフト周波数にシグナルが観測される。この化学シフトは、化合物の分子構造さえ与えれば量子化学理論で演繹的に予測できる。しかし、その理論値と実測値には誤差があるため、補正値が必要だった。
そこで、研究チームは、量子化学理論に基づく演繹的なアプローチと、機械学習による帰納的なアプローチを組み合わせることで、化学シフト予測精度のさらなる向上が見込めると考え、その手法の開発に着手した。
今回、研究チームは、91種類の機械学習アルゴリズムを探索することで、演繹的な量子化学理論と帰納的な機械学習法を組み合せ、この誤差を学習・補正し、高精度に化学シフトを予測する手法を開発した。
研究における量子化学計算は、スーパーコンピューター「HOKUSAI」を用いて行われた。また、研究で開発された化学シフト予測法は研究室のWebサイトで公開されている。
NMR法は農林水産物やヒト検体などの代謝混合物を対象に、簡単な試料調製法でビッグデータを取得することに適しているという。最近では、NMR装置のコストダウンや小型化が進んでいることから、一連の研究成果は今後、簡易NMR装置とAIアルゴリズムによる評価手法が普及することで、重要因子を代謝マーカーとした人間や農産物の恒常性予測と管理につながると期待できるという。