ニトロ化不飽和脂肪酸による自然免疫応答の制御機構を解明

東北大学は、自然免疫応答分子「STING」がニトロ化不飽和脂肪酸によって不活性化される分子機構を初めて明らかにしたと発表した。STINGの活性化に必要なパルミトイル化を阻害する内因性の代謝物を初めて明らかにした重要な報告だと説明する。

東北大学大学院生命科学研究科の田口友彦教授、東京大学大学院薬学系研究科の新井洋由教授、デンマーク オーフス大学 Christian Holm博士のグループとの共同研究で明らかとなった。研究成果は、2018年7月30日に米国科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』で公開された。

DNAウイルスやバクテリアなどの異物が細胞に感染・侵入した際に細胞質に持ち込まれるDNAは、小胞体に存在する膜タンパク質であるSTINGによって感知され、I型インターフェロンの産生および炎症応答を引き起こす。

これまでに田口教授らはSTINGがDNA刺激後にゴルジ体へ移行し、ゴルジ体でSTINGがパルミトイル化を受けることが下流シグナルの活性化に必要であることを見出していた。このパルミトイル化は、STINGのシステイン残基(Cys)の88番と91番に起こることも明らかにしている。しかし、STINGのパルミトイル化を制御する分子機構に関しては不明な点が多く残されていた。

今回の研究では、炎症応答時にニトロ化不飽和脂肪酸が産生されること、このニトロ化不飽和脂肪酸はSTINGのCys88、Cys91に共有結合することでパルミトイル化を直接阻害する能力があることを示した。

まず、マウス個体を用いたヘルペスウイルス感染実験により、感染後、マウス血漿中にニトロ化不飽和脂肪酸が検出されてくることを見出した。このニトロ化不飽和脂肪酸を細胞培地に添加すると、DNA刺激によるSTING経路の活性化が顕著に抑制されることが分かった。この分子機構を解析した結果、ニトロ化不飽和脂肪酸がSTINGのCys88、Cys91に共有結合していることが明らかとなり、ニトロ化不飽和脂肪酸はSTINGのパルミトイル化を阻害していることが示唆された。

STING の点変異により恒常的にI型インターフェロン産生が亢進する自己炎症性疾患(STING -associated vasculopathy with onset in infancy)患者由来の細胞に、ニトロ化不飽和脂肪酸を添加することで、STING 下流シグナルの活性化が抑制できることも見出した。

STINGを介した炎症応答は、病原体感染時のみならず、自己免疫疾患/がん/老化/紫外線暴露時など、様々な局面での炎症反応に関与することが明らかとなってきている。今回の結果から、ニトロ化不飽和脂肪酸はSTINGを介する炎症性疾患に対する治療薬の開発に繋がることが期待される。