銀河の歴史と中心、謎をレントゲンで解き明かす
遠方の活動銀河ではブラックホールに落ち込む物質の多くを連続的に噴出し、ほぼ限界光度で輝く天体も存在する。一方、我が銀河系の中心にあるブラックホールは、休火山のごとくほとんど活動しておらず、その明るさは限界光度の1/10億以下、物質を噴き出す構造も見られない。両者の違いは銀河やブラックホールの性質によるものか、同じ銀河でも時間とともに進化するものなのか、天文学で最大の謎であった。
が近年続々と、銀河系もかつて激しく活動をしていた痕跡が見つかりつつある。'10年に発見されたガンマ線バブル(フェルミ・バブル)は、銀河中心から南北50° 、差しわたし5万光年(銀河系の約半分の大きさ)に及ぶ巨大な泡構造で、その姿は遠方の活動銀河を彷彿させる。バブルが爆発的に形成されたとするならば、太古の銀河中心は今より1億倍明るく、ガンマ線以外の波長にも多くの「爪痕」を残しているはずだと推測した。
早稲田大学の研究チームは、東京大学、理化学研究所、金沢大学と共同で、銀河中心から噴出するガンマ線バブルとX線で見られる巨大ループ構造が、ともに1000万年前に起きた大爆発の痕跡である証拠を突き止めた。バブルが膨張する際に周囲の高温ガスを圧縮・加熱し、巨大ループ構造を形成したと考えられるという。
研究チームは'13年から5年間、日本のX線天文衛星「すざく」および米国の「Swift」衛星を用いて、全天140箇所のX線観測とデータ解析を行った。そして、フェルミ・バブルを包み込む高温ガスや巨大ループ構造をX線で網羅的に観測し、その距離や放射の起源を決定することに成功――。巨大ループ構造はフェルミ・バブル形成時の名残であり、一連の爆発で圧縮・加熱された高温ガス(銀河ハロー)であると結論した。
ループの外側では約200万度のガスが観測され、これらは銀河ハローからの放射であると示唆される。が、巨大ループ構造の上は約300万度と50%ほど高く、X線強度からガス密度が2~3倍も高いこと、さらに吸収の量から、ループ構造が太陽系近傍ではなく、銀河系のかなり遠方に存在することが分かった。高いガス密度は何らかの膨張により圧縮されたガスが吹きたまっていることを意味する。
銀河中心の爆発で生じた衝撃波が銀河ハローを圧縮・加熱したと仮定すれば、その膨張速度は約300km/s と見積もられ、現状の大きさまでフェルミ・バブルが広がるのに約1000万年を要する――。考察の妥当性、1000万年前の大爆発を流体シミュレーションで確認し再現した。研究成果は7編のシリーズ論文として発表され、その最終成果が米国天文学会の運営する科学雑誌『Astrophysical Journal』に掲載された。