相関を解く数理と実験によって、遺伝子ネットワークの制御に成功!

生物学と数学、かつて別ものとして習っていた両者が急接近した挙句に交わっている。コンピュータで処理する数学的モデルや、数理的手法を用いて、ダイナミックな生命現象を科学する、数理生物学は日本でおよそ30年の歴史があり、学会のシンポジウムがほぼ毎年開催されている――。

生物の基本をなす細胞の活動は生体分子(たんぱく質や核酸など)の活性から生み出される。こうした細胞内外の生体分子は互いに活性を調節しあい、相互作用関係のネットワークを作っている。ゆえに現在では、個々の分子の働きだけではなく、ネットワーク全体の振る舞いを知ることが細胞の活動原理を知るために重要だという。

京都大学の研究グループは、上記ネットワークのうち、「遺伝子調節ネットワーク」を制御できることを、脊索動物ホヤの一種"カタユウレイボヤ"の胚を用いて実証。数学的理論のひとつ「リンケージロジック理論」を用いて、このネットワーク(遺伝子の発現レベルを調節する)上で重要な働きをする生体分子を特定し、実験調節することに成功した。

リンケージロジックとは、制御ネットワークの構造とシステムの動態(ダイナミクス)とを直接結びつけるものであり、リンケージロジック理論は、微分方程式系の引数情報のみから、力学系に含まれる重要な変数を決定できる数理――この理論によって、ヒトも属する脊椎動物亜門のモデル生物であるカタユウレイボヤの、胚の細胞運命決定に関わる遺伝子調整ネットワークにおける5つの鍵"分子"を同定した。

今回の理論を応用することで、さまざまなネットワークの働きを調節し、細胞の活動を制御できるようになることが期待されるという。同グループの研究は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業CRESTにおける「生命動態の理解と制御のための基盤技術の創出」領域の支援を受けて行われたものであり、その成果は国際学術誌「iScience」電子版に掲載された。