脳梗塞を治療する新薬候補の開発が新たなステージへ

東京農工大学は、同大学院農学研究院の研究成果を利用した新薬開発について研究成果の実用化事業を推進しているティムスが2018年2月から脳梗塞急性期患者を対象とした「TMS-007」の前期第Ⅱ相臨床試験を開始したことを発表した。

TMS-007は、大学院農学研究院の蓮見惠司教授らが微生物から発見したSMTP化合物の一つで、脳梗塞の原因となる血栓を溶かす血栓溶解作用と、梗塞によって生じた炎症を抑える抗炎症活性・組織保護作用を併せ持つことが明らかにされている。この活性により、TMS-007は優れた脳梗塞治療効果を発揮することが期待される。

この第Ⅱ相臨床試験に先立ち、ティムスは2015年8月に東京大学医学部附属病院 フェーズ1ユニットにおいて健常人を対象とした第Ⅰ相臨床試験を完了し、TMS-007の安全性を確認していた。

これまでのTMS-007の開発は、東京農工大学、昭和大学薬学部(本田一男 元教授)、東北大学大学院医学系研究科(冨永悌二教授)、ティムスの共同研究成果に基づいて行ったもの。科学技術振興機構(JST)、文部科学省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けている。

TMS-007は線溶系(血栓を溶解するシステム)を促進する新規小分子SMTP化合物群の一つ。SMTPは血栓溶解酵素プラスミンの前駆体プラスミノゲンの形(立体構造)の変化を誘導し、血栓への結合を促すとともに、プラスミノゲンからプラスミンへの変換を促進することで血栓溶解作用を示す。

さらに、可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害作用に基づく抗炎症作用を併せ持っている。この活性により、種々の脳梗塞病態モデルで優れた効果を示すことが明らかにされている。このような作用機序の薬剤は従来になく、TMS-007は脳梗塞の治療に一大変革をもたらすと期待されると説明する。