ノーベル・プライズの超解像顕微鏡法、色収差補正で桁違いの精度に!

細胞内の構造や現象を見られる顕微鏡は生物学者の宿願であり悲願であった。それを達成した蛍光顕微鏡の開発者である米・独の3博士に2014年ノーベル化学賞が授与された。3氏はそれまでの光学顕微鏡の可視光による限界"200ナノメートル"の壁を打ち破ったのだ。

試料上のたんぱく質に蛍光物質を結合させてその色素分子にエネルギー励起光を当て、観測スポットとその周辺領域に別の光(STED光)を当てると蛍光が消える。この観測スポットをスキャンし、各点で検出した蛍光を画像化すれば非常に高い分解能が得られる。技術をベースに、その後、紫外線により各色素分子を散発的に蛍光させるしくみと画像化手法(PALM)も発明され、いまではカラー動画を得られる超解像度顕微鏡も製品になっている。

バイオテクノロジー分野において、上述のような技術開発はとても重要であり、バイオ研究の進展を左右する。2点を見分けられる距離(分解能)が飛躍的に向上した蛍光顕微鏡はしかし、従来無視できた色収差(光の色ズレ)を問題として浮上させた。異なる生体分子を多色で染め分けることによって、異なる生体分子を色別に観察するとき、低分解能で気にならなかった僅かな色ズレが、観ている分子同士の位置を曖昧にし、全く異なった結論を導きかねないという。

NICTは、未来ICT研究所において、超解像顕微鏡のための高精度色収差補正ソフトウェアを、大阪大学、オックスフォード大学と共同で開発した。同技術により、生命科学に用いる高度な蛍光顕微鏡における色収差補正精度を従来比で約10倍向上させ、3次元で約15nmの精度を達成した。

観察試料により変化する色収差のために、3次元で約100-300nmの補正精度しか得られていなかった。ところへ、上記ソフトウェアを用いれば、3次元で約15nmの色収差補正精度が得られる。この方法により、近年飛躍的に分解能が向上した超解像顕微鏡の画像を正しく解釈できるようになるという。

研究開発は、画像取得法と計算方法の両面から行われた。画像取得法では、観察試料の中にある同一の対象物を多色で染め分ける方法や、通常はフィルターでカットしてしまう余分な蛍光を使って観察するなど複数の方法によって、観察試料の色収差により色ズレした画像を取得することに成功。このように撮影した画像と、今回新たに開発した計算方法「四象限位相相関」(画像を四つの領域に分割し、それぞれの領域に対して位相相関を計測し、四つの平行移動量を算出)を用いて、複雑な色収差量を高精度に測定することにも成功した。

これまで障壁となっていた観察対象の生体試料が引き起こす色収差を計測する、生命科学・医学研究にとって不可欠な多色観察の高解像度化を推進できると期待されている。ソフトウェアはGitHubに無償公開され、研究成果は英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。