植物の新たな膜交通制御の仕組みを発見

基礎生物学研究所は、植物が進化の過程でどのようにして独自の体制やライフスタイルを構築してきたのかを細胞レベルで明らかにするべく、植物を特徴付ける細胞小器官である液胞にタンパク質を輸送する仕組みの研究を行い、その結果を公表した。

基礎生物学研究所細胞動態部門の上田貴志教授と国際基督教大学の伊藤瑛海特任助教らの研究グループ、理化学研究所光量子工学研究センターの中野明彦副センター長、お茶の水大学の植村知博准教授らとの共同研究。

今回、ARA6とPUF2という植物にしか存在しないタンパク質が、動物や菌類にも存在するRAB5(保存型RAB5)というタンパク質の働きを抑制したり、促進したりすることで、液胞へのタンパク質の輸送を厳密にコントロールしていることを見いだした。

植物は独自の制御因子を生み出すことで、他の生物と共通の細胞活動に多様性を持たせることに成功した。基礎生物学研究所の個別共同利用研究として行われ、成果は英国オンライン科学誌『eLife』に掲載された。

研究グループによると、研究の最大の成果は、植物にのみ存在するRAB GTPaseであるARA6と協調して働くエフェクターを初めて明らかにした。今回の研究ではまず、ARA6のエフェクターとしてPUF2を同定した。PUF2もまた植物にのみ存在するタンパク質。PUF2の働きを詳しく調べたところ、PUF2が保存型RAB5とARA6の双方を活性化するVPS9aタンパク質をエンドソーム膜表面に呼び寄せる働きを持っていることが分かった。

今回の研究により、植物が独自の制御タンパク質を獲得することで、独自の膜交通システムを進化させた一例を具体的な分子メカニズムと共に示すことができた。今後は、このような細胞レベルでの膜交通の多様化が植物の進化にどのように関わったのかを明らかにすることで、膜交通の多様化と進化の意義をさらに理解することができると期待される。