およそ30年後に人口98億に達するだろう、地球上の⾄るところでいま気候変動が激しくなり、リン肥料の枯渇が懸念される。農業および食糧供給では微生物が注目されていて、医療・工業分野でもその機能を最大限利用する動きが広がっている。
けれど微生物はあまりにも種類豊富で、さまざまな微生物種で構成される「微生物叢」全体を制御する理論も技術も未発達。従来⾏われてきた単⼀作物品種の⼤規模栽培において、単位⾯積あたりの収量が⾼い反⾯、病害⾍の新規系統が出現した際に抵抗性が低い傾向にあった、課題解決の突破⼝として期待されているのが、植物と共⽣する微⽣物たち――。
植物は4億年以上前に陸上へ進出。ごく初期の段階から、真菌類の「菌根菌」(きのこ・かび等)と地下部で共⽣し、⼟壌中のリンや窒素を効率的に得る術を進化させている。その体内や体表⾯に「内⽣菌」と総称される多様な細菌類や真菌類が普遍的に存在し、これらが⽣⻑を促進したり、病害⾍を抑制したりしていることが近年明らかになりつつあるという。
京都大学の研究グループは、5カ国(日本・オランダ・スイス・アメリカ・中国)の機関と共同で、微生物生態系を制御するために重要な「コア共生微生物」の探索手法を開発。個々の微生物ではなく、微生物叢が全体で植物に与える効果に着目し、植物の健全な生長を促す微生物叢の中で、鍵となるコア共生微生物種(叢全体の動態を左右する種)を探索するための理論と情報学的手法を構築したことを公表した。
最小の資源・エネルギーコストによる制御で「土着」微生物叢が秘めた機能を最大化する農業に向けて、植物学・微生物学・ゲノム学・生態学・情報学・ロボット工学を融合する研究戦略を提案する。病害虫発生のリスクも低い、持続可能な農業生態系を設計していくうえで、新たな科学的戦略を提供するものだという。研究成果は、「Nature Plants」電子版に掲載された。