京都大学の粂田昌宏 生命科学研究科助教、吉村成弘 同准教授らの研究グループは、可聴域の音に対して細胞レベルで遺伝子応答が起こることを示した。研究成果は、オンライン学術雑誌『PLOS ONE』に掲載された。
今回の研究では、細胞培養器内にスピーカーを設置し、細胞に対して最大10mPa(N/m2)程度の音圧の音波を照射する実験環境を構築。その環境下で間葉系細胞や筋芽細胞、線維芽細胞、神経芽腫などの培養細胞に異なる波形の純音(単一周波数の音波)やホワイトノイズ(全ての周波数を含む音波)を当てた。その後、既に機械刺激などに応答することが知られている遺伝子を対象に遺伝子発現解析を実施した。
その結果、超音波によって発現が促進される「Ptgs2(COX-2)遺伝子」や、機械刺激によって発現が促進される「CTGF(CCN)遺伝子」や「TNC遺伝子」などが、いずれも1~2時間で最大40%程度抑制されることが判明した。
また、正弦波の純音やホワイトノイズで最大の抑制効果がみられ、昔のテレビゲーム音源などにみられる矩形波ではほぼ効果がなかったことから、波形や音の構成が遺伝子応答を引き起こす重要な要素であることが分かる。さらに様々な条件での解析を進めたところ、遺伝子抑制効果は音波の音圧に左右され、周波数はあまり関係ないことや、音波による遺伝子抑制には転写の抑制とRNA分解の促進の二つの段階での制御が関わっている可能性が高いことなども明らかになった。
研究グループによると、これらの成果は細胞レベルで音波に応答して遺伝子をコントロールするシステムが存在することを示唆し、細胞の音波受容メカニズム解明の糸口となるものだという。
今後は、細胞が持つ音の受容・応答メカニズムを追究することで、音波受容に関わる分子基盤が明らかになるとともに、細胞レベルでの影響が多角的に解明されることが見込まれる。また、様々な実験系での研究を進めることで、音という外的情報に対して生命がどのような対応・利用戦略をとってきたかが明らかとなり、生命と音との根本的な関係を解き明かすことが期待される。