河岡義裕教授(東京大学 医科学研究所)と野田岳志教授(京都大学 ウイルス・再生医科学研究所)らの研究グループは、インフルエンザウイルスが子孫ウイルスに遺伝情報を伝える仕組みを明らかにした。
種を存続させるためには、ウイルスもゲノム(遺伝情報)を子孫ウイルスへと伝えなければならない。インフルエンザウイルスは8本に分かれたRNAをゲノムとして持つ。感染細胞から新たに作られるウイルス(子孫ウイルス)は、その粒子の中に8本に分かれたRNAをもれなく取り込む必要がある。
しかし、そのメカニズムの詳細はわかっておらず、8本のRNAを効率よく子孫ウイルスに取り込ませるような特別な仕組みがあるのかどうか、長年の論争となっていた。研究グループは以前、電子顕微鏡解析によって、8本のウイルスRNAが"1+7"という特徴的な配置(中心に1本のRNAがあり、7本のRNAが中心のRNAを囲むような配置)に集められ子孫ウイルス粒子に取り込まれることを明らかにした。しかし、ウイルスRNAが"1+7"という配置を取ることにどのような意義があるのかは解明されていなかった。
今回、研究グループではさらに、ウイルスRNAを1本欠き7本しかRNAを持たない変異子孫ウイルスにも、"1+7"配置にまとめられた8本のRNAが取り込まれることを明らかにした。また、8本目のRNAとして取り込まれたのはインフルエンザウイルスのRNAではなく、感染細胞のリボソームRNAだった。
今回の発見から、インフルエンザウイルスが子孫ウイルスにゲノムを伝えるとき、8本のRNAを"1+7"に集合させる過程が重要であることが判明した。さらに、ウイルスのRNAが足りないときには、"1+7"配置にまとめるために感染細胞のRNAを奪う仕組みを持つことが明らかになった。研究グループによると、今回の成果はウイルスRNAの集合を標的とした新規抗インフルエンザ薬の開発につながることが期待されるという。