フロンガスを用いない地球環境に優しい低温用固体冷却素子を開発

近年、超弾性に伴う熱の移動を活用した新しい冷却現象(弾性熱量効果)が、フロンガスを用いた従来の冷却手法に代わる技術として注目を集めている。

東北大学大学院工学研究科の新津甲大博士(現・京都大学材料工学専攻)、貝沼亮介教授(金属フロンティア工学専攻)の研究グループは、銅を主成分とする超弾性合金を用いて、極低温環境での超弾性効果による大きな冷却効果(弾性熱量効果)を実現したと発表した。研究成果は、英国科学雑誌『NPG Asia Materials』電子版で公開された。

一般に材料は低温になるほど固くなり、伸縮性を失う(低温脆化)。これに対して、研究グループでは、形状記憶合金にみられる「大きく変形させる力を除くと元の形に戻る性質(超弾性)」を活用することで、極低温(4.2K)まで約7%もの伸縮が可能な銅合金「Cu-Al-Mn合金を開発していた。

今回、この伸縮時に得られる冷却効果(弾性熱量効果)を評価し、22Kまで冷却効果が得られることを明らかにした。これまで報告されている超弾性合金における弾性熱量効果発現の最低温度は210Kであることから、応用可能な温度幅を大幅に拡げる成果となるという。この成果により、超弾性合金の低温域におけるアクチュエータや冷却ユニットとしての応用や、超伝導・液化ガス・宇宙工学分野での応用が期待できる。

弾性熱量効果とは、応力の印加・除荷に応じて結晶構造や磁気構造が変化する変態(一次変態)において、変態前後でのエントロピーの差に相当する発熱や吸熱が起こる効果。断熱環境下で変形させることでこの効果を利用した冷却が可能になることから、フロンガスを用いた従来の冷却手法に代わる技術として注目を集めている。

しかし、低温では一次変態時の摩擦発熱が相対的に大きくなるため、この効果を用いた冷却技術は実現困難と考えられてきた。今回開発したCu-Al-Mn合金は、摩擦発熱が極低温でも非常に小さいことが特長であり、例えば10Kにおいては医療分野で広く利用されているニッケル-チタン超弾性合金(Ti-Ni合金)の2%以下にまで低減されていることが分かった。この結果、22Kという非常に低い温度まで冷却効果を得ることが可能になった。