薄型テレビやスマートフォンでお馴染みの液晶ディスプレイは車中でも見かける。いまやそれは、医療機器や製造装置、航空機のコックピットや操船デッキ、プラントの制御室、警察・消防の指令所などといった重要施設でも多用されていて、必要不可欠な存在だ。
動画信号などにも容易に追随する。液体なのに固体の性質を持つ、分子配列が結晶のように規則正しい「液晶」はしかし、その分子の高速な動的挙動を直接的に構造解析する術がこれまでなかったという。岡山大学大学院、京都大学大学院、筑波大学計算科学研究センター、九州大学大学院の教授らの共同研究グループはきょう、液晶分子の構造解析と動的挙動を直接観察することに成功したと発表――。世界初の快挙である。
液晶中の炭素鎖に埋もれた分子骨格を直に解析する方法は存在しないという、これまでの概念を覆した同グループによる新しい計測・解析手法は、時間分解電子線回折法と時間分解赤外分光法を組み合わせたものであり、液晶分子のπ拡張シクロオクタテトラエン誘導体に紫外線光を当て、液晶分子のメソゲンが動く様子を直接観察――。光照射後1~100ピコ秒(ピコ:1兆分の1)程度の時間スケールにおいて、非平面サドル型だった分子骨格が平面型へと動き、分子近傍の液晶構造が変化することが明らかになった。
極小時間スケールで発現する励起状態芳香族性を観測し、理論計算でその妥当性を確認したことは、この物質を基にした光機能性分子材料の設計方針に重要な知見を与えるものになる。今回発表の手法は、光応答性・機能性の液晶分子や、高分子・ゲル・ゴム・生体分子・粘土といったソフトマテリアルの構造決定を革新する測定・解析手法として応用展開が期待される。
研究成果は、米国化学会雑誌「Journal of American Chemical Society」(電子版)に掲載済みだ。