総合マーケティング事業を手掛ける富士経済は、研究だけでなく治療での活用も広がりをみせるティッシュエンジニアリング関連市場を調査し、その結果を報告書「ティッシュエンジニアリング関連市場の最新動向と将来性 2017」にまとめた。ティッシュエンジニアリングとは、1993年に米国の研究者によって提唱された概念で、生きた細胞を使って本来の機能をできるだけ保持した組織・臓器を人工的に作り出すことを目的としている。
この報告書では、再生医療等製品 5品目、細胞 2品目、細胞培養施設/サービス 5品目、セルカルチャーウェア/試薬 10品目、細胞培養/イメージング機器 17品目、人工生体材料用補填材 2品目、計41品目の市場の現状を調査・分析し、将来を予測している。
同報告書での注目市場は「iPS細胞」分野だ。iPS細胞を活用した研究は活発に行われており、市場は拡大を続けている。需要が大きいのは、iPS細胞由来の心筋細胞や神経細胞で、毒性試験や創薬・スクリーニングなどで採用されている。また、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やアルツハイマー病の患者から作製した「疾患特異的iPS細胞」も展開されており、希少難病疾患の病態解明や新規治療用の開発を目的とした採用も期待される。
大学や研究機関は予算が限られ、現状では必要となる数が少ないことや、未分化のiPS細胞を自身で分化して培養するケースも多く、市場のマイナス要因として懸念されるが、民間企業が販売するヒトiPS細胞の市場は2030年に15億円が予測され、大きく拡大すると予測する。
2014年11月に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」により、病院が企業へ細胞の培養を委託することが可能となった。これにより、細胞を製造するプラントの需要が急速に高まり、細胞培養受託サービスが立ち上がった。
再生医療関連の法律を契機に新たに「細胞製造プラント」の建設を進めた企業が多く、直近でのピークを迎えた2016年の市場は前年比2.3倍の34億円となった。間葉系幹細胞を用いた細胞性医薬品の治験が徐々に増えていることや、iPS細胞を用いた臨床応用が進んでいることもあり、幹細胞系の細胞製造プラントが多くなっている。各企業のプラント建設が落ち着くことから2017年には縮小が見込まれるものの、細胞培養ビジネスの本格化や細胞性医薬品の増加による大量培養や安全性の強化といった観点から、長期的にはプラントの需要も増加し、その拡大が予想される。
細胞培養受託は、2015年に市場が立ち上がり、2017年に10億円突破が見込まれる。現状ではがん免疫細胞療法向けの免疫細胞の培養が中心。病院で細胞培養センター(CPC)を保有する場合、細胞培養を病院内で行うことも多く、保有しない病院での細胞を用いた治療は普及が進んでいないこともあり、市場は緩やかに拡大している。がん免疫細胞療法向けの増加に加え、それ以外の細胞受託が増えることで拡大が予想され、今後は脂肪由来幹細胞や線維芽細胞の培養、歯槽骨再生などの受託が期待される。