「腎―脳―心臓」の臓器連関を世界で初めて証明
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川 宏明教授の研究グループが報告。研究成果は、2017年8月17日に、米国心臓協会の学会誌である「Arteriosclerosis,Thrombosis, and Vascular Biology」電子版に掲載された。
現在、心臓の動脈(冠動脈)の硬化が原因となる狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患に対して、カテーテルによる冠動脈ステント留置治療が標準治療として広く行われている。
この治療では治療部位の血管が再び狭くなることを予防するために薬剤溶出性ステントが主に使用されているが、治療後数年経つとステントの両端に冠攣縮が生じることがあり、胸痛や場合によっては突然死に至るという問題点があった。
下川教授の研究グループは動物を用いた基礎実験やヒトでの臨床研究を通して、薬剤溶出性ステント留置後に生じる冠攣縮の病態解明や治療法開発に取り組んできた。今回の研究では、薬剤溶出性ステント留置後冠攣縮の動物モデルにおいて、腎動脈交感神経除神経を行うことで、冠攣縮反応が抑制されることを世界で初めて示した。
ブタの冠動脈に薬剤溶出性ステントを留置すると、ヒトと同様にステント留置部の両端に冠攣縮が生じること、さらに同部位で交感神経線維が増加することを示した。これにより、ステント留置後冠攣縮に自律神経系の異常が関与している可能性が示されたと研究グループは説明する。
次に、全身の自律神経バランスを改善する作用を持つ腎動脈交感神経除神経を行うことで、薬剤溶出性ステント留置後に生じる冠攣縮反応に対する影響を評価した。まず、腎動脈交感神経除神経治療により腎動脈局所の交感神経が切断されたことを組織学的に確認し、次に冠動脈ステント治療に伴い脳の交感神経が活性化していることを明らかにした。
また、全身の自律神経のバランスが腎動脈交感神経除神経治療により変化したことを血圧や筋電図を用いた神経活性評価でも確認。腎動脈交感神経除神経治療により、ステント留置冠動脈での交感神経線維の増加が抑制されることを示し、最終的に冠攣縮反応が抑制されることを証明した。
腎動脈交感神経除神経治療は「腎―脳―心臓」という多臓器連関を介して、ステント留置後の冠攣縮に対する治療法となり得ることを世界で初めて示したという。