指定難病である「多発性硬化症」の治療的分子を同定
大阪大学大学院医学系研究科の村松里衣子 准教授(分子神経科学、免疫学フロンティア研究センター兼任)、山下俊英教授(分子神経科学、免疫学フロンティア研究センターおよび生命機能研究科兼任)らの研究グループが成功。研究成果は、米国医学誌「The Journal of Clinical Investigation」に掲載された。
様々な脳脊髄疾患では脳や脊髄の神経回路が傷つく。傷ついた神経回路はしばしば自然に修復する。神経回路の修復に関するこれまでの研究では、脳や脊髄の中の環境が重要と考えられており、脳脊髄の外部にある臓器から分泌される物質が神経回路の修復に与える影響は解明されていなかった。
研究グループは、膵臓から分泌される「FGF21」と呼ばれるホルモン様物質が、脳や脊髄の神経回路を形成する髄鞘の構造を修復させることを発見した。
マウスを用いた実験から、髄鞘の修復を促す物質が血液の中に含まれていること、またその修復する働きを持つ物質はFGF21であり、特に膵臓から分泌されるものであることを突き止めた。FGF21を自ら作り出すことができないマウス(FGF21欠損マウス)と正常マウスを比較すると、術後14日で足を踏み外す割合が12%違うなど症状の改善が抑制されていた。また、髄鞘が傷ついたマウスにFGF21を投与すると、髄鞘がよく修復するようになった。髄鞘が修復するためには、オリゴデンドロサイト前駆細胞が増殖する必要がある。
そこで研究グループは、多発性硬化症患者の脳のオリゴデンドロサイト前駆細胞を調べたところ、それらの細胞にはFGF21受容体(FGF21と結合してその作用を細胞内に伝えるタンパク質)が発現していることを見いだした。さらに培養細胞を用いた実験から、FGF21がヒトのオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖を促すことを明らかにした。
髄鞘の傷害は、指定難病の多発性硬化症などで認められる特徴的な病変であり、症状の発症や悪化との関連が指摘されている。今回の研究成果によって、多発性硬化症など髄鞘の傷害が見られる疾患に対する治療薬の開発につながることが期待される。