理研、記憶を思い出すための神経回路を発見
理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター理研-MIT神経回路遺伝学研究センターの利根川進センター長、ディラージ・ロイ大学院生らの共同研究チームが発表。研究成果は、米国の科学雑誌「Cell」電子版に掲載された。
共同研究チームは、これまで一連の研究から、人間の記憶が「エングラム細胞」と呼ばれる海馬の細胞群に書き込まれ、貯蔵されることを実証してきた。海馬は幾つかの領域に分かれ、互いにつながって局所回路を形成している。
海馬の歯状回に入った情報は、そこからCA3、CA1領域とそれぞれ伝達していき、嗅内皮質や前頭前野などに送られる。特に背側CA1領域からは、直接内側嗅内皮質の第5層に情報を伝える直接経路と、背側海馬支脚を経由して内側嗅内皮質の第5層に情報を伝える間接経路がある。しかし、それぞれの経路が果たす役割はよく分かっていなかった。
そこで共同研究チームは、背側海馬支脚の細胞を光遺伝学によって特異的に制御できる遺伝子改変マウスを作製し、背側海馬支脚の細胞が記憶の書き込みや想起にどのような役割を果たしているのかを調査した。
ある特定の箱の中にマウスを入れ、脚に軽い電気ショックを与えると、マウスは怖い体験の記憶を形成し、翌日同じ箱に入れられるとすくむ。ところが遺伝子改変マウスを箱に入れて同じように怖い記憶を形成させ、翌日同じ箱に入れて怖い体験を思い出させるテストの最中に、背側海馬支脚の細胞の働きを光遺伝学で抑制すると、このマウスは怖い記憶を思い出せず、すくまなかった。
一方、箱に入れて電気ショックを与えて記憶を形成している最中に、背側海馬支脚細胞の働きを抑制しても、記憶の形成には問題がなかった。
このことから、背側海馬支脚の細胞は記憶の想起に重要な役割を果たすことを明らかにした。さらに詳しい解析により、共同研究チームは、背側CA1領域から直接内側嗅内皮質の第5層に情報を伝える直接経路は記憶の書き込みに、背側海馬支脚を経由して内側嗅内皮質の第5層に情報を伝える間接経路は記憶の想起に、それぞれ重要であることを示した。
研究チームによると、今回の成果はこれまで謎であった海馬支脚の働きを明らかにしただけでなく、海馬の二つの局所回路が、記憶の書き込みと想起という異なる役割を分担していることを示すもので、さらに研究を進めれば様々な記憶障害の原因解明の糸口となると期待できると説明する。