理研、創薬におけるX線自由電子レーザーの有用性を示す

理化学研究所(以下、理研)は、X線自由電子レーザー(XFEL)施設である「SACLA」を用いた「連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)」という手法を使い、創薬におけるXFELの有用性を示した。

理研 放射光科学総合研究センターの内藤久志 先任研究員と国島直樹グループディレクターらと高輝度光科学研究センター(JASRI)の共同研究グループが研究。研究成果は英国の科学雑誌「Acta Crystallographica Section D」電子版に掲載されている。

XFELとは「X-ray Free Electron Laser」の略。従来の半導体や気体を発振媒体とするレーザーとは異なり、真空中を高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的な波長の制限がないことが特徴だ。

SACLAは、理研と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設である。SFXとは、多数の微結晶を含む液体などをインジェクター(噴射装置)から噴出しながら、X線レーザーを照射し結晶の構造を解析する手法のこと。

ある疾病に関連するタンパク質について立体構造が決定された場合、そのタンパク質に結合することで、その働きを調節する低分子化合物(リガンド)を立体構造情報に基づいて設計できる。その創薬手法を「構造に基づく薬物設計(SBDD)」と呼ぶ。

タンパク質と創薬候補リガンドとの複合体の結晶構造情報を利用すれば、さらに効能の高いリガンド(薬剤)を合理的に設計することが可能だ。

X線自由電子レーザー(XFEL)による「連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)」を使うと、生理条件に近い「室温」の結晶構造が得られる。この室温構造はSBDDにとって利点となる可能性があるが、実験的な検討はこれまで行われてこなかった。

また、SBDDで必要な「タンパク質-リガンド複合体」の結晶は、一般的にはリガンド水溶液にタンパク質結晶を浸す「ソーキング法」によって調製するが、微結晶に適用できるかどうか不明だった。

そこで理研を中心とした共同研究グループは、タンパク質サーモリシンとリガンドZAを試料として用い、一般的なソーキング法によりサーモリシン-ZA複合体微結晶を調製。SACLAのビームラインでSFX実験(約27℃の室温)を実施。比較のために、SPring-8の放射光(SR)を用いた従来の結晶構造解析(約マイナス173℃の低温)も行った。

その結果、SFXによるタンパク質-リガンド複合体微結晶の構造解析は上記の簡便な方法で実行できることが分かり、同複合体の室温構造が高い再現性で得られた。

さらに、SFXによる室温構造では、ZAのカルボキシ基において、二つの立体配置を交互にとる「交互立体配座」が見られたが、SRによる低温構造では見られなかった。SFXから得られる構造情報は、タンパク質-リガンド間の生理状態での相互作用をより正確に反映していることが分かった。

この研究によって、SBDDにおける化合物(薬剤)探索のためにSFXが適用できることが示され、今後、製薬企業などによるXFELの創薬利用が加速するものと期待される。