スーパーサラダにさようなら

どれほど勉強しただろうか――。物理や数学の問題はパズルみたいで熱中した。一方、漢文や英語は退屈でならなかった。

英語を本気で学びたいと思ったのは、ひょいと入社してしまった外資系企業で、夕刻の国際電話に出て大恥をかいたときだった。

先輩たちから「コール音3回以内に受話器を取れ」「新人はまっさきに動け」と、社会人のイロハをたたき込まれた筆者はそのとき、脳内に高速かつ大量に流れ込んできた言葉をまったく理解できず、握りしめた受話器を高々と上げ、「誰か~、助けてください」と叫んだ。そして、ある年老いた警備員に救われた。
出勤後まもない彼は微笑とともに近づいてきて、カップラーメンができあがるよりも早く、英語で用談を片付けたあと、「スペイン語のほうが得意なんですけどね」と穏やかにいった。彼に刺激され、助言され、かわいがられて筆者は、クロスワードパズルとペーパーバック、映画と海外ドラマで懸命に勉強を始めた。思春期の英語教材がこんなふうだったら――と思って5、6年後、初の米国本社への出張が決まった。

現地のレストランで白飯を注文すると、ギリシャ系のおばさん店員に、「アイスクリーム頼んでるみたい。でも日本人は好きよ」と訳のわからないことを言われ、延々ライスとバニラの発音練習をさせられた。そして翌日別のレストランで、腹ぺこだという先輩は、アメフト部員のような店員にスーパーサラダはいかが? と尋ねられて「Yes!」。前日の巨大サラダに懲りていた筆者は「No, thank you」。店員は、正しくゆっくり疑問形で問えという先輩にまくし立てた挙句、こちらに向かい、「おまえの連れは話にならない、どうしたいんだ」と訊き、筆者は「この人、スーパーサラダが食べたいんだ」と店員をあきれさせた。後刻、はたと膝を打った。あれは、"Soup or salad?" だったのだと。

英語にまつわる恥ずかしい思いや苦労なんかを吹き飛ばす。技術開発に、NICT 脳情報通信融合研究センター 常 明氏らの研究グループと国立大阪大学 大学院情報科学研究科は、国立北海道大学と共同で成功した。
それは無意識に英単語のリスニング能力を向上できるニューロフィードバック技術だという。たとえばrightとlightを聞いている時の脳波から、音の聞き分けに関連する脳活動パターンを取り出し、その大きさを円にてフィードバック。学習者にその円を大きくするようにイメージしてもらう。実験の結果、本人は、聞き分け学習をしているつもりがないのに、rightとlightの聞き分けを5日間程度で出来るようになったとのことだ。

効率よくリスニング能力を向上できる教育手法になることが期待される。 この研究の一部は、大阪大学COI(センター・オブ・イノベーションプログラム)の支援を受けて行われ、研究成果はPLOS ONEのOPEN ACCESSに、きょう掲載されるという。