シーメンスが提案するプエルトリコのミニ・グリッド戦略
プエルト・リコ政府が発表した死亡者数は46人であったが、ハーバード大学の調査チームによると、ハリケーン・マリアが原因で少なくとも4,600人の死亡者が算出されている。多くの死者も出したが、既存インフラへのダメージも大きな禍根を残した。電力供給は台風が過ぎて数ヶ月たってもプエルトリコ全土において供給不足が続いた。
ドイツ・ミュンヘンに本社がある多国籍企業のSIEMENS(シーメンス)の子会社であるシーメンス・コーポレーションは、2018年7月にプエルトリコにおける新たな電力供給のためのミニグリッドソリューションのフレームワークを発表した。
以下では、シーメンスが発表したプエルトリコにおけるミニグリッドの目標について解説していく。
シーメンス・コーポレーションとは
シーメンス・コーポレーションは電化、自動化、デジタル化の分野で世界的な大手企業であるシーメンスAGの米国子会社。シーメンスはエネルギー効率の高い省資源技術における世界最大の生産者のひとつであり、発電と送電のためのシステムのリーディングサプライヤである。シーメンスは190カ国において約37万人以上の従業員が存在し、米国とプエルトリコにおいては約5万人の従業員を雇用している。世界全体の売り上げは920億ドルを達成している。
シーメンスの提案するマイクログリッドの枠組み
シーメンスのミニグリッドソリューションは、同社の発表しているホワイト・ペーパー、「デザインによる弾力性:プエルトリコの電力網に対する信頼性と弾力性の強化」の中で計画の概要が説明されている。このホワイト・ペーパーの中では分散型エネルギーシステム(DES)について解説されており、プエルトリコの島全体で10個のマイクログリッドに既存のエネルギーインフラストラクチャが組み込まれるようになる。これによって、弾力性のあるインフラの整備を構築することができる。
このアプローチは、プエルトリコの特定のニーズを満たすために調整され、 1つの中央電源への依存を減らし、停電期間を短縮、また自然災害による緊急時の復旧コストを最小限に抑えることで、回復力のあるエネルギーインフラストラクチャオプションを提供する。再生可能エネルギーへの依存度を高め、確立された再生可能エネルギーへの普及目標を15%超過する目標で計画が進められている。
ミニグリッドの実現するためには次の条件が必要である。
a. 地理的にコンパクトであること
b. 大規模な暴風に耐えられるように制限された115kvおよび38kvの設備を必要とする
C. 実質的に長期間に渡った負荷を供給するために内部発電が必要
シーメンスが計画しているミニグリッドの計画では次の地域で設備が敷設される予定である。
ホワイトペーパーの中で説明されている下の表(Table 4-1: Results Summary for Integrated System; 20% Penetration)では、20%の普及率を達成する年間計画の結果目標を示している。 ここでは、既存のPV発電を含む約1,668MWのPV発電が設置されているが、243MW / 1,458MWhの新しい蓄電池(BESS、約720MWの新しい小型CCGTがケースに追加)が観測されている。 以下の表4-1は、再生可能エネルギーが風力発電のエネルギーの1.9%を占めていることに注目して、供給源別のエネルギー供給量を示したものである(表4-1)。 PVから18.1%、合計浸透率20%という算定である。
集中型資源への依存を低下させ複数の電力供給源を確保する計画
ベース戦略では、大小のサイクルガスタービン(CCGT)と太陽光発電 (PV)とバッテリーベースのエネルギー貯蔵を含む20%の再生可能ポートフォリオ基準(RPS)を達成することを目標としている。
この強化された弾力的なケース戦略によって、集中型資源への依存度を低下させ、分散再生可能発電の使用、また電力供給がピークとなる夜間に使用する電力を日中に蓄積することができる。
電力供給を一極集中にするのではなく、分散された電力供給と複数の電力生成を可能にするしくみを作ることによって、大規模な災害に遭った時でもダメージに備えることができると考えている。
ミニグリッドは資源に乏しい地域や災害の多い地域で効果を発揮する
スマートグリッドは大規模なエネルギー供給インフラ構築を指すが、これより小規模なミニグリッド(マイクログリッドとも呼ばれる)は資源の乏しい地域や災害の多い地域で安定したエネルギー供給を可能にする。
過去に紹介した記事では、ケニアでマイクログリッドを成功させたイギリスの企業SteamaCoについて取り上げた。
参考:SteamaCoのシンプルなマイクログリッドが農村地域の人々の生活を変える
https://bp-affairs.com/foresight-insight/2018/07/steamaco.html.preview.html
この例でも同様に、日中の太陽光を備蓄することによって夜間の電力供給を可能にしている。ケニアの例では元々電力供給が不安定で、夜間になると電気が使えない世帯がほとんどだった。SteamaCoのミニグリッドを導入することで人々の生活は大きく変化し、夜間でも電力が使えるようになったことで子供は勉強に時間を割くことができ、娯楽を楽しむ人も増えた。
プエルトリコはハリケーン・マリアの影響で何ヶ月も電力供給が不安定なままであった。ハリケーンマリアの前にも大型ハリケーンによるダメージを受けており、短期間で2度も大きな災害被害を受けることになったため国民は電力を使用できないまま不便な生活を余儀なくされた。これを回復するために膨大な時間を費やしたことから、災害に備えた強固なエネルギー供給システムの構築が必要不可欠である。
電力供給が不安定な発展途上国において分散型電力供給網の構築は従来の一極集中の電力供給システムを変えることになるため、リスクを分散することにつながる。電力の供給が止まってしまうと、病院で適切な医療が受けられないことや、特に気温が高い熱帯地域では食料の備蓄ができないことや空調をコントロールできないことから熱中症など様々な弊害が引き起こされてしまう。早期の復旧のために平常時から電力供給システムのバックアップを備えることが必要になる。
Siemensの提案しているミニグリッドは計画段階だが、災害による被害が大きいプエルトリコのエネルギー供給構造を良い方向に変えることができるのかもしれない。