ユニセフ・フランスが暗号通貨による寄付受付を発表、変化する寄付のかたち

世界中の恵まれない子どもたちに支援を行う国際的な慈善団体「UNICEF(ユニセフ)」のフランス支部「UNICEF France」は、暗号通貨による寄付を開始することを発表した。なぜユニセフ・フランスは暗号通貨による寄付の開始に踏み切ったのだろうか。

利用できる暗号通貨の種類と寄付方法

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画像出典:UNICEF France

ユニセフ・フランスで寄付できる暗号通貨は現在のところ次の9種類だ。

Bitcoin/イーサリアム/ライトコイン/Ripple/Bitcoin Cash/Dash/Monero/EOS/Stellar

寄付の方法は次のウェブサイトにアクセスしたあと寄付額を入力し、『Je Fais Un Don』というボタンを押すと各暗号通貨のQRコードが表示される。これをQRコードリーダーで読み取ると寄付を行うことができる。この方法の他にマイニングで寄付することもできるが、Ripple、Stellar、EOSではマイニングによる寄付はできない。

マイニングとは、暗号通貨のベースとなっているブロックチェーン理論の「ブロック」を確定させる複雑な計算処理作業。ブロックチェーンは情報が書き込まれたブロックが連なっている状態だが、ブロックごとのデータの整合性が取れていないと次のブロックが作れないしくみになっている。このブロックのデータの整合性を早く確定させたマイナー(発掘者)には暗号通貨の報酬が支払われる。ユニセフ・フランスが暗号通貨を寄付する他にマイニングによる寄付も募っているのはこの理由からである。

きっかけはイーサリアムによる募金活動「Game Chainger」

ユニセフ・フランスが暗号通貨による寄付の受付に至った経緯はウェブサイトにその理由が書かれている。

「今日まで私たちは常に同じ人々に同じ方法で寄付を募っていましたが、暗号通貨とその革新的なアプローチはこれまでと異なる方法で寄付を集めるきっかけになりました。

PCゲームコミュニティの団結のおかげで、私たちはグラフィック・カードを人道的支援ツールに変換することを可能にした"Game Chaingers"と呼ばれる最初のオペレーションを実行しました。これは慈善事業のためのイーサリアムの最初の募金活動でした。

Game Chaingersの成功後、ユニセフはさらなる進化を望んでいます。」

上記で触れられている「Game Chaingers」は、2018年2月から3月までの間にフランスの広告代理店であるBETCとユニセフ・フランスが共同で行った特別なプログラムだ。このプログラムは戦争に巻き込まれているシリアの子ども達を支援する目的でスタートした。

参考:BETC
https://betc.com

Game Chaingerの仕組み

ユニセフ・フランスと広告代理店BETCが行ったGame Chaingerというプログラムは一体どのような方法で寄付を募ったのだろうか。しくみはこうだ。

オンラインPCゲームやeスポーツでは大量の「グラフィックボード」と呼ばれるPC周辺機器機器が購入されている。グラフィックボードは画面を綺麗に、また動画をなめらかに見せる目的と画像・動画の処理能力を上げるために用いられる外付けハードウェアで、ゲーマーや動画編集者によく用いられている。

現在ではグラフィックボードの演算能力の高さが知られるようになり、暗号通貨のマイニングを行うマイナーにも使われるようになったため、世界中でグラフィックボードの需要が高まっている状態となっている。

Game Chaingerの計画では、プレイヤーがゲームをしていない間にグラフィックボードが稼働し続けることでマイニングされるため、ブロックの確定作業で発生した報酬を寄付として集めることができるかもしれないという見立てであった。

この活動に大きく貢献したのがCounter StrikeとStarCraft、League of Legendsという3つのゲームコミュニティである。Game Chaingerはこの3つのゲームコミュニティで活躍しているプロゲーマーやインフルエンサー、ライブ・ストリーマーらと協力し、Game Chaingerのコンセプトは彼らを通してSNSで広く拡散された。

BETCの発表によると、およそ2ヶ月のプログラム期間中にSNS、オンラインニュース、動画サイトなど様々な媒体でGame Chaingerは紹介され、23億のインプレッションを獲得。12,000台のPCが活用され、33,000USドル(約375万円)の寄付を集めることができた。

驚くべきことに、このプログラムにかかったコストはゼロである。大量のPCとグラフックボードを利用したマイニングにより、ユニセフ・フランスの寄付を募る活動は成功に終わった。

ユニセフ・フランスの成功に続けとばかりに、ユニセフ・オーストラリアでも同様に「HopePage」というプログラムが行われている。

ユニセフ・フランスが暗号通貨による寄付受付を発表、変化する寄付のかたち

画像出典:Hope Page

Hope Pageで寄付された暗号通貨は世界の恵まれない子供達のために安全な水と治療用食品、ワクチンなどの救命用品の提供のために使われる。

Hope PageではPCひとつあれば特別なソフトウェアなしにマイニングを行うことで暗号通貨を寄付することができる。ユニセフ・オーストラリアに寄付された暗号通貨はUSドルに変換され、援助が必要なところに使うことができる。

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画像出典:Hope Page

https://www.thehopepage.org/

暗号通貨の寄付によるメリット

暗号通貨での寄付によるメリットは3点あり、まずどの国であっても送金・入金にかかる手数料がほぼかからないことが挙げられる。また寄付をしたい人が手持ちのコンピュータの処理能力を利用することでマイニングによる報酬を寄付団体に支払うこともできる。もう一点は、政府の検閲が厳しい国や地域であっても暗号通貨を寄付することができる点だ。暗号通貨は中央集権型機関がどこにも存在せず、P2Pによるやりとりを可能にしている。

一方で、暗号通貨は以前から悪用の危険性も指摘されている。紛争を起こしている元凶の過激団体や武装組織、犯罪組織、軍事政権が資金調達のために暗号通貨を利用した大規模な送金・入金のルートを獲得した場合、さらに状況が悪くなるということでもある。

まとめ

ユニセフ・フランスの取り組みは非常にユニークで、暗号通貨を利用した寄付の受付はまさに新時代のチャリティ活動だ。この取り組み様々な理由で支援が必要な人に寄付を募る機会を与えるきっかけになるかもしれない。

チャリティ活動は運営にかかる費用はゼロではない。従来の寄付を募る活動では、広告費や移動にかかる費用など様々な費用も負担する必要があった。しかし暗号通貨で寄付が可能になれば、活動に必要な費用もかかることなく必要な金額を獲得することができるかもしれない時代になったのだ。

Game Chaingerは2019年から2020年の間にリプログラムバージョンが展開される予定だ。